天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 047】扈三娘

扈三娘

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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扈三娘(こさんじょう/hù sān niáng)



<三元論に基づく個性判定>

41番 **弱い生存欲求**、**弱い知的欲求**、**とても強い存在欲求** - **「感情的な支援者」** - 他者と感情的なつながりを大切にし、実践的な支援を行う。

 

<概要>

扈三娘(こさんじょう/hù sān niáng)は、物語中に王英(おうえい/wáng yīng)と結婚する女性。あだ名は「一丈青」で、日月双刀の使い手。もともとは独龍岡の地域に属する三つの村のひとつ、扈家庄の長をしていた扈太公の娘であった。彼女はもうひとつの有力な村である祝家庄の祝彪(しゅくひょう/zhù biāo)と婚約していた。梁山泊集団と祝家庄が衝突した際、扈家庄は祝家庄を支援。この戦いの中で扈三娘(こさんじょう/hù sān niáng)は王英(おうえい/wáng yīng)を生捕りにしたが、その後に林冲に負けて逆に生捕りにされた。戦後、梁山泊勢力の替天行道(たいてんこうどう/tì tiān xíng dào)の意義に同調した彼女は落草を決意すると共に、宋江(そうこう/sòng jiāng)と義兄弟の契りを交わす。一方の宋江は王英に妻探しを約束していた事から、彼女に向けて王英に嫁いでくれと相談。彼女がこれを承諾した事で結婚。百八人の英傑たちが集結した大聚義(だいしゅうぎ/dà jù yì)の際には序列59位に定まり、夫の王英(おうえい/wáng yīng)と共に「三軍内検察管理騎兵隊長(騎兵軍・歩兵軍・水軍の管理及び情報工作の騎兵隊長)」を担った。浮気性の夫との強引な結婚であったが夫婦仲は良かったらしく、その後の戦地で常に夫婦連携の活躍を示す。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦において、夫の王英の横で殉死。戦後、朝廷は彼女を花陽郡夫人に追封した。

 

<独龍岡と三つの村>

水滸伝』の中盤においてひとつの山場となる梁山泊勢力と祝家庄の大衝突。ここに登場する「独龍岡」という地域は、作者の施耐庵(したいあん/shī nài ān)による架空の場所。具体的にどこにあるのかは明示されていないが、「梁山泊の付近」という設定なので現在の山東省のどこかである。この「独龍岡」は三つの山岡によって構成されており、それぞれ三つの村が並んでいる。中央が祝家庄、西側が扈家庄、東側が李家庄だ。その中でも祝家庄が最も勢力が強く、家だけでも1〜2万戸があった。一方、個人の名声としては扈家庄にいる扈三娘の存在感が強く、当地においては比類のない武術の才覚を有していた。三つの村は名文化された契約ではないものの、有事においては助け合うという協定のような暗黙の了解を交わしていた。しかし梁山泊勢力との戦いにおいては扈家庄が宋江(そうこう/sòng jiāng)側につくと決断し、これによって村同士に深い亀裂が入り、同時に扈三娘と祝彪の婚約関係も破綻した。

 

<製作舞台裏・こぼれ話>

作者の施耐庵(したいあん/shī nài ān)に関する大まかな情報は以前の記事にまとめたが、その他に祝家庄に関連したこぼれ話がある。施耐庵は農民反乱軍から離脱した後、しばらく江蘇省無錫市にある祝塘鎮の資産家、徐骐の邸宅に身を寄せていた。この時に静かに集中した研究や教育の成果が、後の『水滸伝』の創作に繋がっていく。『水滸伝』に登場する様々な架空の地名はこの「祝塘鎮」の付近から取ったと考えられるものが多く、「祝家庄」はまさにこの「祝塘鎮」が原型であると言われている。

 

※画像:百度百科「祝塘鎮」より引用

 

李逵(りき/lǐ kuí)さんよ…扈三娘はそれで良いのか>

まだ記事として取り上げていない梁山泊勢力の豪傑、李逵(りき/lǐ kuí)はそそっかしくも純潔な愛するべき人物像として描かれている。中国大河ドラマとして製作された『水滸伝』のいずれにおいても最も目立つキャラクターのひとりとして登場し、特に2011年製作のドラマで彼を演じる俳優の康凯(こうがい/kāng kǎi)の存在感は実に見事だった。だが、作中における彼の最大の倫理的な問題点は「敵とあらば殺戮を何とも思わない狂気的な戦士」である事だろう。今回の祝家庄と梁山泊勢力の戦いは独龍岡全体に派生し、最終的に李逵(りき/lǐ kuí)が扈家庄に突入した際、扈家庄の一門老幼を皆殺しにしてしまっている。扈三娘はこれによって家族を失った事になるが、それでも宋江に忠義を尽くすと決意したばかりか、宋江の言う通りに王英との結婚を承諾している。ここは梁山泊勢力の英傑たちの個性が光り、新たな仲間が加わる勢いのある場面なので深く考えなければ気にはならないが、こうして物語を分析していくと「扈三娘、その判断で良いのか?」という疑問も生じる。「梁山泊が悪逆非道とも思える所作を講じても、なぜかその被害者である人物が梁山泊に深く感じ入って忠誠を誓う」という展開は、彼女のみならず秦明(しんめい/qín míng)などの何人かの人物に当てはまる。これは事象・心理・関係の事項に対して何らかの改修が必要であると思われる。

 

※但し、この軽率に感じる物語展開は作者の施耐庵(したいあん/shī nài ān)が大雑把な創作をしてしまったというより、むしろ逆に歴史的事項をよく調べた結果の産物であるとも考えられる。後述の通り、「扈家の滅亡」は実在の事件を基にしている可能性がある。

 

<物語全体の「三元関係性」の縮図にしたい>

まだ構想の範囲内であるが、『械胡録』の製作に当たり、個人的には『水滸伝』の全体的な組織関係を次のように整理したいと考えている。

 

宋王朝:名君・仁宗の魂が乗り移った徽宗が率いる組織。「国利民福(国の利益と民の幸福)」を掲げ、対立勢力との融和を目指す。

梁山泊:仁義礼智を尊ぶ宋江ら英傑たちが率いる組織。「替天行道(天に代わって世を正す)」を掲げ、不正行為と異端勢力の排除を目指す。

③方臘軍(と異民族):摩尼教(キリスト・イスラム等の要素が混じった秘密宗教:実在の方臘が民の揺動に用いた宗教)を中核とする組織。「清光大智(北宋版の摩尼教が掲げた清浄・光明・大力・智慧という四つの教義)」を掲げ、宗教に基づく新国家の樹立を目指す。

 

この大きな構図を独龍岡の三村に当てはめると、祝家庄が方臘軍、扈家庄が梁山泊、李家が宋王朝(朝廷)に相当するような印象がある。この関係性の改修を行えば、それぞれの村、それぞれの人物たちの対立関係が明らかとなり、扈三娘の葛藤や梁山泊勢力への帰属の決意などの根拠が生まれるように思う。

 

<ところであだ名の由来は?>

あだ名の「一丈青」の由来は、よく分からない。色々な説があるが、これは北宋時代に流行していたあだ名のひとつであるらしく、「身長が高い人」を意味するものであったらしい。『三朝北盟会編』によれば、宋の末期から元の初期にかけて、馬皋の妻(一説には娘)である「一丈青」という名の女将が存在し、その後に岳飛(がくひ/Yuè Fēi)の部下であった武将の張用(ちょうよう/zhāng yòng)に嫁いだとされている。背が低い王英と背が高い扈三娘のコントラストは、確かにキャラクター造形としての大きな魅力がある。

 

岳飛(がくひ/Yuè Fēi)は以前の記事でも紹介した通り、北宋南宋の両時代において活躍した名武将であり、『水滸伝』の花栄(かえい/huā róng)の原型であるとされる人物だ。この岳飛(がくひ/Yuè Fēi)を題材とした中国大河ドラマ岳飛伝』において、張用(ちょうよう/zhāng yòng)と共に岳飛の右腕として戦った牛皋(ぎゅうこう/niú gāo)の役を、先ほどの李逵(りき/lǐ kuí)役を演じた俳優、康凯(こうがい/kāng kǎi)が演じている。彼は2008年の三国志派生作品『新三国』で張飛役を演じている。筋肉質でがっちりとした幅広顔の好漢役が似合う人物だ。

 

<原型>

彼女は『水滸伝』の創作キャラクターであるが、彼女の姓である「扈」は歴史上の人物である扈成(作中では同名で彼女の兄が登場する)から借用された可能性があると指摘されている。扈成は宋王朝時代の武将であり、彼とその家族は戚方(山賊であったが、後に岳飛の軍に下る人物)によって殺されている。『水滸伝』の扈成は「中興内でも軍官武将として活躍した」と紹介されており、これは実在の扈成と一致をしている。したがって先述の「李逵(りき/lǐ kuí)が扈家庄を徹底的に滅ぼす」という逸話は、この戚方が扈成一家を滅ぼした歴史的記録を改編したものだと言われている。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 傅粉何郎(導術)

**説明**: 扈三娘は、凛々しい容姿や力強い発言により周囲の血気を高める能力「傅粉何郎」を持っている。この導術は、彼女の風格に基づき、仲間たちの士気を高め、戦闘力を向上させる力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この導術は、道具に依存せず、扈三娘の風格と発言力に基づく。

  - **思考性(中程度)**: 効果的な言動を行うためには、高い共感力と判断力が必要。

  - **関係性(とても濃い)**: 扈三娘の導術は、周囲の人々との関係を強化し、協力と信頼を促進する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **士気の向上**: 扈三娘は、戦闘前や重要な会議で力強い発言を行い、仲間たちの士気を高める。
  2. **戦闘力の強化**: 扈三娘の凛々しい姿と力強い言動が、仲間たちに勇気と自信を与え、戦闘力を向上させる。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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