天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 026】顧大嫂

顧大嫂

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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顧大嫂(こだいそう/gù dà sǎo)

 

<三元論に基づく個性判定>

57番 **とても弱い生存欲求**、**弱い知的欲求**、**とても強い存在欲求** - **「感情豊かな協力者」** - 他者との感情的なつながりを大切にし、実践的な支援を行う。

 

<概要>

梁山泊勢力には女傑が三名いる。"母夜叉"の孫二娘(そんじじょう/sūn èr niáng:張青の妻)、"一丈青"の扈三娘(こさんじょう/hù sān niáng:王英の妻)、そしてこの"母大虫"の顧大嫂(こだいそう/gù dà sǎo:孫新の妻)だ。孫二娘は以前の記事で取り上げた「復讐に燃える人肉饅頭」の人。今回の顧大嫂は「毛太公事件(虎退治に端を発した冤罪事件)」がきっかけとなり梁山泊勢力に加わった8名の英傑たち(通称「登州派」)の一人。あだ名の"母大虫"の虫はそのままの意味ではなく、夫の兄・孫立(そんりつ/sūn lì)の記事で触れた当て字(通假字)であり、その意味は「虎」となる。まさに虎のような豪胆な女で、夫と共にいずれの戦場においても大きな功績を立てた。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦においても、夫の孫新(そんしん/sūn xīn)、その兄の孫立(そんりつ/sūn lì)と共に活躍して生還。戦後は朝廷より東源の県君に封じられ、孫兄弟と共に登州へ戻った。

 

<外見>

顧大嫂は、眉が太く目が大きく、ふくよかな顔立ちと体型をしており、頭には異様な釵環を挿し、腕には時興の腕輪を着けていると描写されている。

 

<原型>

水滸伝』の原型となった『大宋宣和遺事』や元雑劇水滸戯などには一切登場しない人物。よって、夫の孫新と同じように、小説として『水滸伝』が制作された際に新しく練られた人物である。一方、あだ名の「母大虫」を「虎」とするモチーフは作者の創作ではなく、晋代の『搜神記』に由来する。

 

※『搜神記』:東晋の史学者、干宝が制作した志怪小説集。原本は既に失われているが、後の人々が補って編纂したものが残っている。20巻構成で、大小454の物語が収録。登場人物には鬼や妖怪、神仙が含まれており、仏教や道教の要素が混じり合っている特徴がある。記されている内容の多くは神霊や怪異に関するもので、一部は民間伝説に基づいている。この作品内に「虫」を「虎」とする逸話が登場している。

 

<現代のアメリカ娯楽が喜びそうな人物設定>

底知れぬ体力と武芸の才能を有し、侠義心に満ち溢れ、古道熱腸な性格として描かれている女傑。しかも、孫二娘(そんじじょう/sūn èr niáng)のような悲劇的な過去がある訳でもなく、また扈三娘(こさんじょう/hù sān niáng)のように家柄が良い訳でもなく、ただ何という社会的特性を持たない庶民が世の男を凌駕するほどに強くて懐が深い。そして、ルッキズムの話題に触れて申し訳ないが、彼女の描写から鑑みると"適度にブサイク"である。まさしく、昨今のアメリカのエンターテイメント業界が無造作に追い求めている典型的な"ポリコレ女性キャラクター"だ。14世紀の中国が先駆者として現代的な女性像を描いていた事はとても興味深い。ただし、これは完全な創作という訳でもなく、以前も記事で紹介した通り、北宋南宋には例外ながら梁紅玉(りょうこうぎょく/liáng gōng/hóng yù)のような実在する女性の猛将がいた。「心身共に強い女性」は社会の趣向から生じた妄想だけではなく、実例があった。

 

- **余象斗**:従兄弟の脱獄計画を立てた際、顧大嫂の胆力と志が一人の男を凌駕していることがわかる。

 

- **李卓吾**:1. 「婦人だとは言わず、姑舅姉妹であっても、このように力を尽くすことができるとは。今の世の男性や兄弟は逆に落ちぶれているとは、どうしたものか。」2. 「顧大嫂は一人の婦人でありながら、このように人々の危機に対応できる。今では冠をかぶった者が、国家に少しでも利害があるとすぐに逃げ出そうとするが、大嫂の召使いにすらなれるだろうか。」

 

- **金聖嘆**:1. 「顧大嫂を描いた一篇は、窈窕淑女の四字を全く使わない。」2. 「彼女を母旋風と呼ぶこともでき、その意味は李逵と全く同じだ。」3. 「顧大嫂を描くと、まるで黒旋風が生きているようだ。」4. 「絶妙な大嫂、その言葉に感服し、病も治せる。」5. 「絶妙な大嫂、その二字を除けば、黒旋風の意味そのものだ。」

 

- **陳忱**:「三女将の中で、唯一顧大嫂だけが独自に存在し、その威風は鸠盘荼にも劣らず、ますます恐ろしく感じる。」

 

- **牛牧野**:「弱きを助ける母の如く、凶を懲らす虎の如し。英姿颯爽、千秋に共に仰がれる。」

 

<印象>

私からすると、この女性は「宁为玉碎,不为瓦全(高貴な玉器として砕けることを選び、低賤な瓦器として保全されることは望まない:『北斉書・元景安伝』に最初に登場した成句)」の人だ。恥を晒して生き永らえるよりも、正義を貫いて破滅を選ぶ。また古代ローマ風に言えば、「不正な平和よりも正しい戦いを選ぶ」といった所だろう。思いがけない場所に類いまれなる玉が見つかる事もある。これを成句にするのなら「登州の隅に大嫂あり」だ。

 

<三元論に基づく特殊技能>

※上述の印象を反映する

 

#### 玉砕の美学(心術)

**説明**: 顧大嫂は、自分が正しさを信じるほどに体と心の力が湧き上がる能力「玉砕の美学」を持っている。この心術は、彼女の強い信念と正義感に基づき、困難な状況でも圧倒的な力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この心術は、道具に依存せず、顧大嫂の精神的な力と信念に基づく。

  - **思考性(中程度)**: 正義を信じ、その力を引き出すためには、高い自己認識と強い信念が必要。

  - **関係性(中程度)**: 顧大嫂の心術は、彼女の信念を共有する仲間との絆を強化し、協力を促進する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **決意の力**: 顧大嫂は、自分が信じる正義のために戦うことで、身体的な力と精神的な力が湧き上がり、敵を圧倒する。
  2. **士気の向上**: 顧大嫂の強い信念は、仲間たちにも影響を与え、彼らの士気を高める役割を果たす。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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