天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 025】孫新 

孫新

 ※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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孫新(そんしん/sūn xīn)

 

<三元論に基づく個性判定>

61番 **とても弱い生存欲求**、**とても弱い知的欲求**、**とても強い存在欲求** - **「感情豊かな夢追い人」** - 自分の夢や目標を追い求めながら、他者との感情的なつながりを大切にする。

 

<概要>

梁山泊勢力には「毛太公事件(虎退治に端を発した冤罪事件)」がきっかけとなり加入した8名の登州の英傑たちがいる。それが孫立・孫新・楽和・顧大嫂・解宝・解珍・鄒淵・鄒潤(通称「登州派」)だ。今回の孫新(そんしん/sūn xīn)は、前回の記事で取り上げた孫立(そんりつ/sūn lì)の弟で、顧大嫂(こだいそう/gù dà sǎo)の夫である。あだ名は「小尉遅」。もともとは瓊州の出身で、軍人家系に育った。兄の孫立と共に登州に駐屯し、妻の顧大嫂と一緒に酒店(食堂兼旅館)や賭博場などを経営していた。梁山泊勢力に加わった後も飲食分野の専門家として、梁山泊四店情報募集来賓接待長の一員を担当。主に、妻と共に情報収集を目的とする東山飯店の経営を行なった。宋江(そうこう/sòng jiāng)の招安(朝廷への帰順)の決定に対しては、中立的な立場を貫く兄に同調。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦後は武奕郎に任命され、登州へと戻って静かな日々を送った。

 

<地域の印象>

瓊州出身の孫新と、登州出身の顧大嫂。この夫婦の関係を鑑みると、そこにちょっとした地域性の疑問が生じる。『水滸伝』の舞台となった北宋時代は仁宗の規制緩和政策などにより、それ以前の時代よりもずっと移動が気楽なものとなっていた。市民レベルでは地域どころか、外国(西夏や遼)との商業的な交流も活発だったのだ。それでも、現代よりも地域による言語・文化・風習の違いは大きく、北宋最南端の瓊州(現・海南島付近)と最東端の登州(現・山東省付近)には大きな隔たり(約2500km)がある。

※画像:「百度百科『宋朝』」より引用

 

そこは広大な大地を擁する中国だ。現代の中国でさえ、他の省などから来た人たちは、現地の人たちから「外地人(wài de rén)」と呼ばれる。当時であれば尚更、出身地は本人の存在意義のひとつであった。北宋王朝の時代には、主に以下のような地域の違いが存在した。

 

  1. **南北差異**

秦嶺—淮河を境界として、宋以前の大部分の時期において、中華世界の経済と人口の中心は北方にあった。しかし、「安史の乱」以降、北方では藩鎮が割拠し戦乱が頻繁に起こるようになったので、北方から南方への大規模な人口移動が生じた。これによって南方の人口と社会経済が急速に発展。宋の太宗の時代においては、南方の人口比率が北方を上回り、その後は南北の人口比率はおおむね3:2の割合で保たれたという。具体的な統計情報としては、北宋元豊年間における南方の両浙路、江南東路、江南西路、荊湖南路、荊湖北路、福建路の戸数は6765986、北方の開封府、京東路、京西路、河北路、陝西路、河東路の戸数は5676597であった。つまり、北方より南方が約20%多いという計算になる。また南方の官民田数は194796774畝であり、北方の143175394畝よりも37%多かった。戸平均耕地面積は南方が30.3畝、北方が27.7畝/戸であり、やはり南方の方が2畝以上多い。このような具合で、発展の潜在性を鑑みると、北宋時代は「北は行政中心、南は文化・商業中心」「北は頑固で伝統的、南は柔軟で創造的」といった大雑把な地域性の違いがあったように感じられる。(その後、北宋は異民族・金の侵攻によって崩壊し、南に遷都して南宋を建てた。これにより、漢民族の中華世界は行政も含めて完全に南方へ移動したという事になる。)

 

  1. **東西差異**

「北は行政中心、南は文化・商業中心」「北は頑固で伝統的、南は柔軟で創造的」という北宋時代のイメージは、どことなく現代の中国でも共通する点があるから興味深い。思想家・和辻哲郎の理論のように、環境的要因が人間の性質に対して何らかの影響を与えている可能性もある。そしてまた、東西に関するイメージもまた現在に共通する点が見受けられる。漆侠曰く「宋代の経済発展は東部の方が西部より優っている」とあり、これは今も同じような感覚がある。漆侠は「もし峡州を中心に北は秦嶺、南は海南島に至る南北線の右側を、成都府路、利州路、梓州路、夔州路、荊湖南路の西部および広南西路」と定義し、これを宋代の西部地域とした。西部地域における成都府路の人口は東部の各路とそれほど大きな違いは無かったが、その他の路(京西路、陝西路、河東路、湖北路、利州路、夔州路、広南西路、梓州路)は土地があまりに広大で人が少なく、農業生産が遅れていたという。当時の統計によれば、ここの平均人口密度は5.5戸/平方kmであった。続けて、彼は「太行山—巫山—雪峰山」を連ねた線を境にして、そこから右部分を東部地域とし、開封府、京東路、河北路、淮南路、両浙路、江南東路、江南西路、荊湖南路、福建路、広南東路の10の行政区域がここに含まれるとみなした。この東部地域は地理が比較的平坦で生存環境に適しており、平均人口密度は10.9戸/平方kmであった。加えて『文献通考·田賦考』によれば、東部地域の平方kmあたりの平均耕地指数は約310畝、西部地域は約123畝であった。(尚、西部地域の梓州路は山地があまりに多く、耕地指数の計算すらも不可能であった為、先述の数字には反映されていない。)総じて、「東は開拓されており発展しやすく守りやすい」「西は未開拓で発展しにくく守りにくい」という地域性の違いがあった。

 

<武人としての活躍と評価>

登州東門の外の十里牌で居酒屋を営み、その後も飲食分野で活躍をした彼であるが、兄と同様に武人としての素質も十分にあった。もともと体が強壮であり、兄の孫立から一通りの武芸を納めている。特に鞭(鉄の棒)と槍の技が得意。解兄弟の脱獄作戦、祝家荘の攻略戦、大名府の攻略戦、童貫(どうかん/tóng guàn)や高俅(こうきゅう/Gāo Qiú)率いる朝廷軍との衝突、招安後の南征北戦(遼国、田虎、王慶、方臘)といった具合に、彼はほとんど全ての戦いにおいて多くの戦功を挙げている。孫新と顧大嫂が変装して敵地に潜入する任務を実行する機会もあり、最終戦の方臘(ほうろう/fāng là)討伐戦でも敵軍を撹乱させる事に成功している。

 

- 張恨水:孫立は登州の提轄であり、その弟の孫新は東門外で賭場を開いている。この職業の差は、兄弟の間に賢不肖の差があることを示しているわけではない。(どちらも武芸に優れた人物である。)

 

<原型>

孫新という人物は『大宋宣和遺事』や『宋江三十六人贊』、元雑劇の水滸戯など早期の水滸伝の故事や文学には見られず、小説『水滸伝』が執筆された当時に創出された人物であると考えられる。

 

<印象>

孫新という人物はまるで液体だ。兄に従って意欲的に武芸を収め、妻に従って脱獄作戦を主導し、梁山泊宋江)に従って酒店を経営しながら前線で命を張る。こうして彼の言動を追ってみると、兄の孫立は状況に準じて自分や周囲を最適な形に変える事のできる才能を持っていたが、彼はそもそも「自分の形が無い」ような印象を受ける。よく言えば環境にすぐに適応できる人物、悪く言えば自分というものが無い人物だ。だが、『水滸伝』の世界では後者のデメリット部分が幸いにもまったく機能せず、前者のメリット部分だけが存分に発揮された。これが彼に対する私の印象である。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 流心の作(心術)

**説明**: 孫新は、環境と使命に応じて自分の思想や言動を最適化させる能力「流心の作」を持っている。この心術は、彼の柔軟な思考力と適応力に基づき、どんな状況でも最善の行動を取ることができる力を持つ。

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この心術は、道具に依存せず、孫新的自身の精神力と適応力に基づく。

  - **思考性(とても濃い)**: 環境や使命に応じて自分の思想や言動を最適化するためには、高い思考力と柔軟性が必要。

  - **関係性(中程度)**: 孫新の心術は、周囲の人々との関係を強化し、協力を促進する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **状況適応**: 孫新は、異なる環境や状況に迅速に適応し、最適な行動を取ることで、任務を成功に導く。
  2. **柔軟な思考**: 孫新は、使命に応じて自身の思想を調整し、必要な行動を効果的に実行する。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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