天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 036】単廷珪

単廷珪

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)



 

<三元論に基づく個性判定>

25番 **強い生存欲求**、**弱い知的欲求**、**とても強い存在欲求** - **「社会的な実践者」** - 社会とのつながりを重視し、実践的な活動を通じて他者に貢献する。

 

<概要>

単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)は水攻めの戦法に長け、あだ名は「聖水将」。元々は魏定国(ぎていこく/wèi dìng guó)と共に凌州団練使として仕えており、梁山泊勢力を攻撃するよう朝廷から命じられたが、関勝(かんしょう/guān shèng)の策略によって敗北を喫した。百八人の英傑たちが結集した際には序列第44位に定まり、黄信(こうしん/huáng xìn)・孫立(そんりつ/sūn lì)・宣賛(せんさん/xuān zàn)・郝思文(かくしぶん/hǎo sī wén)・韓滔(かんとう/hán tāo)・彭玘(ほうき/péng qǐ)に続き、「騎兵小彪将兼遠距離斥候隊長」の第七員を担った。最終戦となった方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦において、盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)に従って歙州を攻撃した際、魏定国(ぎていこく/wèi dìng guó)と共に落とし穴の罠にはまって伏兵により殺されてしまった。戦後、朝廷から義節郎の追封を受けた。

 

<火と水の将軍>

梁山泊勢力が大名府を破り、関勝(かんしょう/guān shèng)などを降伏させた段階で、朝廷がいよいよ彼らの存在を危険視し始めた。皇帝の徽宗の諫議大夫(皇帝に進言を行う官僚)である趙鼎は「梁山泊勢力を招安して、味方に引き入れるべきだ」と提案したのだが、奸臣である蔡京(さいけい/cài jīng)がこれを頑なに拒絶。蔡京は趙鼎の職を解くように皇帝に詰め寄ると共に、自らが指揮して梁山泊勢力を打破すると豪語。この蔡京が選んだのが、「聖水将軍」の単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)と「神火将軍」の魏定国(ぎていこく/wèi dìng guó)であった。彼らは「水火二将」と呼ばれる名のある武人で、単廷珪と関勝は蒲東で勤務していた際に何度も顔を合わせる知人関係であった。この事から、後に単廷珪は関勝の策略に掛かってしまった。虚しい事に、朝廷側の多くの人間はこの結果に驚かなかった。朝官たちは内心で「蔡京のような無能な役人が軍の指揮など取れるはずもなし」と嘲笑っていたからである。この敗北に驚きおののいたのは皇帝だけだったかもしれない。

 

<外見>

「鉄製の四方帽をかぶり、頂上には黒い飾り紐がある。熊皮の鎧を着て、黒い甲冑を身にまとい、黒い槍を持って深い黒馬に乗っている」とある。

 

<印象>

性格面では、魏定国の剛烈さに対し、単廷珪はより穏やかで円滑な性格とされる。

 

<原型>

『大宋宣和遺事』や『宋江三十六人贊』、元雑劇水滸戯などの早期水滸故事には見られない人物であり、小説『水滸伝』の創作とされる。人物の原型としては、五代時代の劉守光の部下であった実在の武将、同名の単廷珪であると考えられている。尚、単廷珪と魏定国が「水火二将」と称されるのは、伝統的な道教神話の「龜蛇二将」に関連している可能性があるという。

 

<あだ名に因んだ展開が行方不明>

「騎兵小彪将兼遠距離斥候隊長」に属する武人は、宣賛(せんさん/xuān zàn)、郝思文(かくしぶん/hǎo sī wén)、韓滔(かんとう/hán tāo)、彭玘(ほうき/péng qǐ)然り、武功の評価が高い割には人となりの描写が非常に限られていて存在感が薄い傾向がある。しかも、この単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)は「聖水将軍」という高い評価が用意されているにも関わらず、なんと物語において一度も水を用いた作戦に関わっていない。『水滸伝』はその名前の通り"水辺の要塞"が軍事拠点となった物語であり、その他の戦いにおいても水軍が活躍する場面が多いのだが、「聖水将軍」はまったくこれらの戦局に携わっていないのである。読者総ツッコミが入る展開だ。一方の魏定国(ぎていこく/wèi dìng guó)は「神火将軍」というあだ名の通りに火攻めの作戦に関わっているので、作者がその描写を忘れてしまったのか、あるいはもともと用意していたが展開の都合で削除してしまったのかもしれない。こうした展開の行方不明状態もあって、単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)の事を最後までしっかり覚えている読者は少ないかもしれない。せっかくの興味深いその設定を活かさないのはあまりに惜しく、せめて「水軍関連の戦いの作戦指導を彼が行った」ぐらいの改修は必要であるように感じられる。

 

<龟蛇二将(亀蛇二将)>

単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)と魏定国(ぎていこく/wèi dìng guó)。彼らは道教の伝説に登場する「二天門の門将」をイメージして造形されていると考えられている。この二人の門の番人の生みの親は、圧倒的な力を持つ神格のひとりである「真武大帝」。この者が仙人になる為の修行中に、腹と腸が空腹によって激しく騒ぐようになり、思い切ってそれらを取り出して足元に投げ捨てた。その後に大帝が成仙した際、投げ捨てられたそれらの腸と腹が霊気を帯びて「龟蛇二将(亀の将軍と蛇の将軍)」に変容。これが二天門の門将となったという訳である。亀は水、蛇は火を司る「二魔王」としての性質もあったので、「水火二将」とも評された。このように民間伝承や『酉阳杂俎』『灵应录』『云麓漫钞』等の文献には亀と蛇という姿で登場する彼らであるが、宋王朝時代あたりから人間として描かれる事が多くなったようだ。

 

※「龟蛇二将の暴走」を題材とした逸話もある。真武大帝の臓物から変化した亀と蛇が山を下りると、村の家畜を次々と食べ始めてしまった。真武大帝がこれを聞いて、すぐに龟蛇二将を捕らえて制圧。最終的に彼らは真武大帝に処罰され、蛇将軍は亀将軍の体に巻きつき続け、亀将軍は永遠に水を吐き続けるという運命になってしまった。

 

道教の強力な仙人たち>

ギリシャ神話同様、中国神話に登場する神々も多彩な性質を帯びた設定が構築されていて非常に興味深い。その一部の概念が道教に受け継がれ、明王朝時代がその道教の神話的概念を用いた小説を多く創作した。『水滸伝』にもこの創作の流れがしっかりと反映されており、今回の単廷珪(ぜんていけい/shān tíng guī)の人物設定に関わるものもあれば、実際に登場する仙人(九天玄女宋江の夢に登場して重要な書物を渡す仙人)もいる。ここに、先の「真武大帝」「九天玄女」を含め、古代の中国神話における"六大戦神"を中国の記事を参考にして取り上げておこう。

 

- 蚩尤(しゆう/chī yóu):蚩尤は上古神話に登場する人物であり、常に黄帝との関係が語られる。『史記』の「五帝本紀」には、蚩尤が反乱を起こし、黄帝と涿鹿の野で戦ったことが記されています。蚩尤は「鉄石を食べることができ、人間の体に牛の蹄を持ち、四つの目と六つの手を持つ」とされており、風伯雨師の助けを借りて濃霧を発生させ、黄帝を九度敗北させた。しかし、九天玄女の助けを借りて最終的に黄帝は勝利し、蚩尤は戦神として崇められるようになった。

 

- 刑天(けいてん/xíng tiān):刑天の伝説も黄帝との戦いが描かれている。黄帝に天帝の地位を奪われた刑天は青銅の盾と大斧を持ち、黄帝と戦った。黄帝は刑天の首を切り落とし、常羊山に埋めたが、刑天は首を失っても戦意を失わずに腹を口に見立てて戦い続けた。この不屈の意志により、刑天は戦神として尊敬されるようになった。

 

- 大禹(だいう/dà yǔ):大禹は洪水を治めた英雄として知られているが、その過程で多くの異獣とも戦った。大禹は相柳(九頭の蛇)や無支祁(神猴)など、多くの怪物を討ち取った。彼は三つの神器(開山斧、河図洛書、定海神針)を駆使して凶獣を打ち破り、その功績により戦神としても称えられるようになった。

 

- 九天玄女(きゅうてんげんじょ/jiǔ tiān xuán nǚ):九天玄女は少数の女性戦神であり、兵法と策略に優れている。彼女は黄帝と蚩尤の戦いで重要な役割を果たし、黄帝に軍事の知識と兵符を授けた。黄帝が彼女のお陰で蚩尤に勝利する事が出来たのである。九天玄女はその知恵と力で尊敬される存在だ。

 

- 真武大帝(しんぶたいてい/zhēn wǔ dà dì):真武大帝は道教の神仙であり、北極四聖の一人。彼は三界の妖魔を討伐するために30万の神将を率いて戦いを繰り広げた。真武大帝の武器は北方黒馳驰衮角断魔雄剣であり、彼の勇猛さと強大な力が広く知られている。

 

- 二郎神(じろうしん/èr láng shén):二郎神は『西游記』や『封神演義』に登場する神として知られている。その名は李冰の次子、李二郎に由来するという説が有力だ。彼の武器は三尖两刃刀であり、多くの神仙や妖魔と戦った。その多くの戦いでの功績があり、戦神として崇められている。前回の記事の彭玘(ほうき/péng qǐ)のあだ名にはこの二郎神の要素が一部反映されている。彭玘(ほうき/péng qǐ)が用いる武器が「三尖两刃刀」であるという点も、この神話がモチーフである。

 

<三元論に基づく特殊技能>

※上述の「聖水将軍」に関連する一部の改修事項を反映する。

 

#### 聖水将の極(心術)

**説明**: 単廷珪は、水上戦の作戦構築に際して比類のない的確な分析能力を発揮する能力「聖水将の極」を持っている。この心術は、彼の卓越した分析力と戦術的な知識に基づき、水上戦において圧倒的な戦術を展開する力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この心術は、道具に依存せず、単廷珪の精神的な力と分析能力に基づく。

  - **思考性(とても濃い)**: 水上戦の作戦を効果的に構築するためには、高い分析力と戦術的な思考が必要。

  - **関係性(中程度)**: 単廷珪の心術は、水上戦において仲間たちとの協力を強化し、成功の確率を高める。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **水上戦の作戦構築**: 単廷珪は、水上戦において敵の動きを正確に分析し、最適な作戦を構築することで、敵を圧倒する。
  2. **戦術的指揮**: 単廷珪は、水上戦において仲間たちを効果的に指揮し、戦局を有利に進める。

 

※画像:DALL-E

 

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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