天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 041】陶宗旺

陶宗旺

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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陶宗旺(とうそうおう/táo zōng wàng)

 

<三元論に基づく個性判定>

52番 **とても弱い生存欲求**、**とても強い知的欲求**、**とても弱い存在欲求** - **「孤高の理論家」** - 他者から独立し、深い知識を追求する。

 

<概要>

梁山泊勢力における唯一の「農民出身者」。数万人規模の集団となった梁山泊勢力の中には当然多くの農民がいたが、その中で百八人の英傑に名を連ねているのは彼、陶宗旺(とうそうおう/táo zōng wàng)だけである。あだ名は「九尾亀」で、光州の出身。農器具の鉄鍬(てつぐわ/tiě qiāo)を武器として戦う妙技の持ち主。黄門派(黄門山の四人の山賊頭領:欧鵬・蔣敬・馬麟・陶宗旺)の一人であり、宋江(そうこう/sòng jiāng)らが付近を通過した際に知己を得た事から梁山泊勢力へ加入。百八人の英傑たちが集結した際には序列75位に定まり、梁山泊一切城壁製造専門管理(土木管理)に任じられた。砦の建造を統括するという防御面で欠かす事の出来ない人材であるが、歩兵として戦場に参じる場面も多かった。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦では前線で戦い、潤州で殉死した。戦後、朝廷は彼を義節郎に追封した。

 

<九尾の技術者>

古今東西、創作世界が広いと言えど、クワで戦うヒーローは彼ぐらいであろう。とは言え、彼は槍や刀など他の武器もひと通り使いこなす事が出来た。あだ名の「九尾亀」の「九尾」は、多種多様な武器を用いる事の出来る彼の才覚を表現している。また、彼の実務上の多才ぶりは武器だけではない。土木関連の事業においても、港湾の掘削、水路の修理、宛子城の城壁の整備、山前の大路の建設、家屋や四周の寨栅の増築、攻城器具を監造など、あらゆる建造作業に従事出来た。原作における登場回数は他の黄門派と同様に限られているが、物語の行間において彼の技術者としての優秀ぶりが十分に伺える。

 

※「亀」は中華世界において、古代から「龍」「鳳凰」「麒麟」に続く四霊に名を連ねる縁起の良い動物だ。神話において、亀が大禹の治水を助け、人類に利益をもたらしたという話がある。また、古代の人々は亀を使って吉凶を占っていた。「九尾の亀」は伝説上の海中の神亀であり、『龜筮綺珠』には「亀は三千歳で九尾を持ち、蓮の葉の上に巣を作る」とある。

 

<原型と評価>

陶宗旺という人物は宋元時代の『大宋宣和遺事』、『宋江三十六人賛』、元雑劇等の史料に存在しない為、小説『水滸伝』における創作キャラクターであると考えられる。そして以下の評価が示す通り、農民である彼が落草した(山賊となった)経緯も不明だ。これは同じ黄門派も蔣敬(しょうけい/jiǎng jìng)、馬麟(ばりん/mǎ lín)も同様であり、物語の隙間のひとつだ。

 

- 張恨水:「『水滸伝』の群酋の多くは細民(下層民)の出身であるが、本当に農家の子として参加したのはただ一人、陶宗旺だけである。陶宗旺が欧鵬一味に加わり盗賊となったのは、その始まりが何かはわからない。しかし、彼の性格を見ると慎重で誠実なタイプであり、おそらく彼もまた『梁山泊に追いやられた』一通りの例外ではなかったのであろう。犯すことの難しい罪を結局犯すに至ったのだから、その深く重い逼迫の度合いが想像できる。惜しむらくは『水滸伝』の論者が彼のために特筆した伝を立てることができなかったことである。彼が最終的に盗賊となったことを考えれば、真の漢人が劉秀を見るように、『慎重で誠実な者もまた同じようにしていた』のである。芥子の中に大千世界を見るように、私は深く感銘を受けた。」

 

- 牛牧野:「朝に権謀を追い、野に力を競った。農を捨てて咆哮し、侠を崇めて義を尊んだ。」

 

<所感>

陶宗旺(とうそうおう/táo zōng wàng)の人物設定として原作で表現されていた「クワを武器とする武人」「土木事業の専門家」「梁山泊勢力唯一の農民」という光る要素をより大々的に表現できれば、その存在感に大きな説得力を与える事が出来る。それはさほど難しい事ではないが、熟考が必要なのは「どうして彼が落草したのか」という地点の改修である。その経緯について、形式としては「腐敗した役人に追い詰められて落草せざるを得なかった」という展開が誰の頭にも浮かぶ所だが、実際にどうして河南省にいる一介の農民がそこまで追い詰められたのか、これを慎重に検討するべきである。現代社会に当てはめて想像するのなら、新潟県でお米を作っていた農家の親父さんが黒社会に身を投じ、腐敗した日本政府の打倒を志すようになったといった事象であるから、そこには相応の事件性・思考性・関係性が必要である。『水滸伝』の好漢のひとり、晁盖(ちょうがい/cháo gài)のモデルとなったと評されている実在の方臘(ほうろう/fāng là)の反乱は、膨大な数の農民がそこに加わった。この農民たちは「皇帝の徽宗が干ばつや疫病に苦しみ今日を生きるのもままならない民を無視し、宮中に飾る珍しい形の石や植物を大規模に収集していた事(その事業に各地域の民からの協力を強制的に収集していた事)」という事件に憤り、それが反乱軍参加への原動力となった。『水滸伝』にもこの徽宗(きそう/huī zōng)の花石鋼(珍しい石や植物の収集事業)に関する話題が何度か登場しているので、陶宗旺(とうそうおう/táo zōng wàng)が落草した原因もこの要素と絡めるのが良さそうだ。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 点石成金(心術)

**説明**: 陶宗旺は、身近にある部材から複雑な構造物の設計を瞬時に頭の中で描く能力「点石成金」を持っている。この心術は、彼の卓越した設計能力と創造力に基づき、迅速かつ正確に建築や機械の設計を行う力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(中程度)**: この心術は、部材に依存するが、その使用方法は陶宗旺の精神的な力と設計能力に基づく。

  - **思考性(とても濃い)**: 複雑な構造物を瞬時に設計するためには、高い創造力と技術的な知識が必要。

  - **関係性(中程度)**: 陶宗旺の心術は、設計図を通じて仲間たちと協力し、プロジェクトの成功を支援する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **即席の設計**: 陶宗旺は、急な建設や修理が必要な場合に、身近な部材を使用して複雑な構造物を瞬時に設計し、実行に移す。
  2. **戦術的な構築**: 戦闘や防衛の際に、素早く効果的な構造物を設計し、敵の進行を阻止する。

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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