天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

余談:"吴越同舟"、いざという時の本当の隣人はどちらなのか? 

吴越同舟

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同じ日の同じ時間帯、日本と生活・文化・政治の各方面で結びつきの強い二つの国に関連する出来事がネットニュースに掲載された。偶然にもこの二つの見出しが同時に掲載されていたページを目にした瞬間、私はすっかり悩ましい気持ちになった。命懸けで日本人を助けてくれた蘇州人(中国人)がいる一方で、日本人の命に多大な危害を与えている米国兵士(アメリカ人)がいる。

 

別に私には特別な政治的な思想はない。単なる論理学者なのだから。誰もが上手に仲良くやってくれよと思っている。愛し合う必要もないが、嫌い合う必要もない。ただ、"隣人"と評される人たちが自分の国で悪さをし続ける事は、到底許す訳にはいかない。罪を憎んで人を憎まずと言うが、私はそこまで仙人になりきれない。しかもその人が国を背負った者であるのなら、どうしたって国を憎まない訳にはいかない。ましてや悔しい事に、在日米軍の犯罪は治外法権。我々ではその罪を裁く事が出来ないのだ。この鬱屈とした感情を浄化する事はかなり難しい。

 

2020年。新型コロナウイルスパンデミックが起きた時もそうだった。中国と日本は政治の垣根を超えた驚くべき助け合いを行なった。中国が危機に陥っている時に日本から大量の物資が送られ、逆に日本が危機に陥っている時には中国から大量の物資が送られた。救援物資の荷に記されていた鑑真の漢詩、「山川異域、風月同天(我々は住まう地が違えども、共に同じ世を分かち合っている)」の言葉には風雅の中に底知れぬ情と義が感じられた。一方、アメリカが日本にくれたものは何だったか。アジア人のヘイトクライム増加だとか、在日米軍基地のパンデミックだとか、ダイヤモンドプリンセス号の日本対応の批判だとか、それぐらいしか私の記憶には無い。

 

2011年に起きた東日本大震災福島原発事故についても、中国とアメリカに対する私の印象は180度違う。以前の記事にも書いたが、福島原発事故で何の見返りも要求せず、ただお世話になった日本に恩返しをしたいという一心から特殊な放水車(通称「大麒麟」)を国外から輸送して提供してくれた中国出身の龍潤生さんがいた。そして宮城県女川町の水産会社、佐藤水産佐藤充専務は、寮にいる中国人研修生たちを救う為に現地に急行して避難を訴えて彼らを救い、自らは津波に流されて命を落とした。一方、アメリカは…そう、確かに彼らも軍隊を通じて原発事故や物資に関する「トモダチ作戦」という支援を実行してくれたらしい。彼らがその「トモダチ作戦」で人的被害を被ったとして巨額賠償請求裁判を起こさなければ、私は彼らに感謝をしていただろう。「お前を助けた時に損失をこうむったから責任を取って金を寄越せ」と迫るのは君子の行動か?それは本当にトモダチと言えるのか?

 

「吴越同舟(呉越同舟)」は中国から伝来した、現代の日本でもよく知られている成語だ。内容は次の通りである。

 

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<吴越同舟(呉越同舟)>

 

もともとは『孫子·九地』からの出典。孫武孫子)は次のような逸話を紹介し、人間の法則性に関する説明をした。かつて春秋時代、呉国と越国は頻繁に戦争を繰り広げていた。ある日、呉越の国境近くの川面にある渡し船には、十数人の呉人と越人が乗っていた。双方は誰もお互いを気にかけず、船上の雰囲気は非常に重苦しいものだった。この船が北岸を離れて南岸に向かっていたところ、突然天候が急変し、狂風が吹き始めた。瞬く間に空は黒雲に覆われ、激しい暴雨が降り注ぎ、巨大な波が次々と渡し船に襲いかかった。二人の呉国の子供が恐怖で泣き叫び、越国の老婆がよろめいて船室に倒れ込んだ。舵を握る老船頭は一方で必死に船の舵を抑え、他方で皆に船室に入るよう大声で呼びかけた。別の二人の若い船員は素早くマストに駆け寄り、帆を解こうとした。しかし、船体が風浪の中で激しく揺れ動いてい為、なかなか解く事が出来なかった。このまま帆を解かないと船が転覆する危険があり、非常に危機的な状況であった。この一触即発の瞬間、若い乗客たちは呉人であれ越人であれ、皆一斉にマストに駆け寄り、狂風と悪浪に立ち向かいながら一緒に帆を解こうとした。この時の彼らは出自を超えて、一致団結していた。しばらくして、渡し船の帆はついに降ろされ、揺れ動く船が少し安定を取り戻した。老船頭は風雨の中で共に危機を乗り越えた人々を見て、感慨深く言った。『呉越の両国が永遠に和睦して暮らせたら、どんなに素晴らしいことだろう。』

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遠くの親戚よりも近くの友人、とでも言うべきだろうか。中国はいざという時に助け合える隣人だ。今のアメリカとの関係にはそれが無いと私には感じられる。もちろん、「いざという時」が終わると、中国と日本はまた牽制をし合う仲になるかもしれないが、それだって良いじゃないか。我々は同じアジアという地域に住まう力強い朋友であり続ける。この不可思議な絆は、アメリカには絶対に理解し得ないだろう。

 

もう一度言っておくが、私は特定の国を差別する人間ではないし、そうもしたくない。我々は地球人だ。人と人が傷つけ合うよりも、助け合った方がずっと良い。しかし、やはりこういった事件を見聞きすると悩んでしまうのだ。本当の隣人は誰なのかと。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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