天朗気清、画戲鑑賞

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【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 101】金大堅

金大堅

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)

 

<三元論に基づく個性判定>

23番 **強い生存欲求**、**強い知的欲求**、**弱い存在欲求** - **「自己完結型の学者」** - 自分の知識と技能を用いて独自の研究を行い、他者との関わりを最小限にする。

 

<概要>

金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)、あだ名は「玉臂匠」。済州の出身で、印章や石碑などの天才的な彫刻家。宋江(そうこう/sòng jiāng)の救出作戦の中で、前回取り上げた天才的な書道家である蕭讓(しょうじょう/xiāo ràng)と共に必要な人財となり、梁山泊勢力に合流した。百八人の英傑たちが集結した大聚義(だいしゅうぎ/dà jù yì)の際は序列第66位に定まり、「一切兵符印章製造管理」に任命された。彼の職務は主に兵符、印信、牌面(※こう繻子三省)の製造を実行または管理するというもの。また蕭讓(しょうじょう/xiāo ràng)と同じように武芸にも通じていたので、招安後の南征北伐の戦いの中では戦地での武功も立てた。その結末も蕭讓(しょうじょう/xiāo ràng)と類似。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦前に朝廷から呼ばれる事になって梁山泊の共同体から離脱。「御前にて聴用(皇帝直属の使用人)」となり、最終的には内府御宝監の官職をまっとうしたものと思われる。

 

<兵符、印信、牌面>

兵符、印信、牌面は宋王朝時代の高度な社会生活において不可欠であった品々であり、金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)のような腕の良い職人が活躍する領域であった。それぞれの道具の概要は以下の通りだ。

 

- ### 1. 兵符(へいふ)

兵符は、中国の古代や中世において軍事に関する命令や指示を伝えるために使われた信物である。通常、兵符は虎の形をした「虎符」として知られており、二つに割られて保管された。片方は中央政府や軍の指揮官が持ち、もう片方は地方の軍司令官が保持する。戦闘や軍事行動の際に、中央政府が命令を下す際、兵符の二つの部分を照合することで、その命令の正当性を確認する仕組みになっていた。これにより、偽の命令を防ぐ事が出来た。

 

- ### 2. 印信(いんしん)

印信は、官職や個人の権威を示す為の印章を示す。現代社会の印鑑と似ているが、その社会的な存在感は当時の方がずっと高い。中華世界では官職に就く際に政府から支給される印章もあった。これを用いて文書や命令書に押印する事で、その内容が公式な資料である事を示す事が出来た。また、私的な用途でも印信が用いられ、契約書や証書に使用されている。そうした公文書の信頼性の保証と偽造防止の為、印信は署名とセットで重用された。

 

### 3. 牌面(はいめん)

牌面は、木や金属などで作られた名札や標識。官職や役割を示すための札や、特定の場所や人物を識別する為に用いられた。要するに、工芸的要素を含んだ身分証明書である。例えば、官吏や使者が訪問する際に、その身分を示す牌面を携帯し、それを相手に見せる事で自分の存在を証明した。牌面は、役割や身分の証明に重要な役割を果たした。

 

<2013年にようやく表舞台に>

彼は宋江救出作戦の立役者としての印象が強く、明確な特殊技能もあるので印象には残る。しかし、原作の『水滸伝』には彼の登場場面はほとんど無い。その後の派生作品でも中心人物として描かれる事はなく、1998年製作の中国大河娯楽ドラマ『水滸伝』でも登場はごく僅か。しかも、金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)を演じた俳優の名前も不明という状態だ。

 

ただ、ようやく2013年のシリーズ映画『水滸人物譜』において、『金大堅と蕭讓』という作品が製作された。これは歴史上初めて金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)という人物に焦点が当てられた作品ではないかと思う。その作品の内容は『水滸伝』の晁盖(ちょうがい/cháo gài)の原型の一部となり、また主要な敵として登場する方臘(ほうろう/fāng là)の若い頃の有名な逸話に類似している。大まかなあらすじは次の通りだ。

 

- 深刻な蝗害に見舞われた華光県。農作物が全滅し、飢餓に苦しむ民衆を目の当たりにした金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)はいてもたってもいられず、自分の彫刻の才能を用いて偽の公文書を作る事を決意した。その彼の活躍によって県令の倉庫から食料を民に配布する事に成功するが、後にこの工作が原因で逮捕されて無憂島の牢獄に送られる。ここで腐敗役人が彼の才能を知り、書画の天才である蕭讓(しょうじょう/xiāo ràng)と共に偽造金銭を作るように強制するが、彼は悪事への加担を拒絶。この話を聞いた梁山泊勢力は彼らの救出作戦を実行。こうして金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)と蕭讓(しょうじょう/xiāo ràng)は共に無憂島を脱出し、梁山泊勢力に合流するに至った。

 

石勇(せきゆう/shí yǒng)の単独映画もそうであったが、前半部は丁寧で後半部が荒っぽい印象だ。後半部の偽造金銭事件は映画作品としての外連味を演出する為に多少ながら強引に適用したのだろう。文学として改修するのであれば、前半部の食糧奪還事件を描けばとても効果的だと思われる。

 

※同作品で金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)の役を演じている俳優は于彦凱(うーげんがい/yú yàn kǎi)。彼は2013年製作の中国ドラマ『水滸伝』では朱仝(しゅどう/zhū tóng:関羽のような立派な髭を持った英傑)役を演じている。

 

<補足:中華世界と印章>

百度百科「印章(用作印于文件上表示鉴定或签署的文具)」より引用

 

印章は中国の彫刻された文字の一形態で、最も古いものは殷代の甲骨文や周代の鐘鼎文、秦代の刻石などが含まれる。金属や銅、玉、石などの素材に彫刻された文字は総称して「金石」と呼ばれ、学術的には印章(玺印)もこの「金石」の一部という考え方だ。その印章の起源は商代にまで遡ると言われているが、遺物や記録から証明できるのは春秋戦国時代からだ。特に戦国時代には主に商業取引の証明に用いられ、秦の始皇帝が中国を統一した後は権力の証明効果も付与されるようになった。

 

大まかな歴史の変遷は次の通りだ。

 

#### 隋唐時代の印章

- 1. 簡牘(木簡や竹簡)が日常生活から完全に消え、紙が政府の公文書で広く使用されるようになったため、公印のサイズが増大し、隋代の公印は辺長が約5.4cm(約隋の二寸)に拡大した。

- 2. 公印は官吏個人に配布される職官印から、官署に配布される官署印へと転換し、公印は佩帯されず、匣に納められて官署に置かれるようになった。

 

#### 唐代の公印

- 1. 「宝記」や「朱記」といった新しい印章名が登場しました。

- 2. 唐初期には、印章の钮(印の持ち手)は鼻钮(びいじゅ、長めの円形の持ち手)から橛钮(けつじゅ、短い方型の持ち手)へと進化した。

- 3. 唐代後期の印背には楷書で印文が刻まれるようになり、隋公印のように刻印時間は刻まれなくなった。

- 4. 鑑賞用の印章や斋馆印が登場した。

 

#### 宋代の公印

- 宋代初期には五代十国時代の旧印が使用されていたが、すぐに公印が再鋳され、「新」や「新铸」という文字が嵌め込まれた。

- 宋初期の公印の印文は、隋印とは異なり、蟠条法ではなく直接鋳造され、筆画の間隔も隋唐印ほど広くなかった。

- 南宋時代から印鑄の監督を文思院が担当するようになった。

 

※この宋王朝時代、異民族も漢族の文化と同じように印章を用いるようになった。宋と隣接していた異民族は遼国(りょうこく/liáo guó)、西夏、金などである。

 

- 西夏の公印:西夏は、独特の円角形式を持つ公印を使用し、白文で極めて太い筆画を特徴とした。印文は宋朝の九疊文の特徴を取り入れ、均整の取れた配置がなさている。西夏の公印は一般的に二字から六字の印文を持ち、印背には印章の保持者の名前が刻まれている。

 

- 遼の印章:遼の印章は、漢篆文と契丹文の二種類があり、契丹文は漢字隷書を基にして作られた文字である。契丹文は元朝でも使用されたが、1191年に廃止された。

 

- 金朝の公印:金朝は、海陵王時代に公印制度を改革し、公印の鋳造が精密になり、印背には造印機関や鋳造年月が刻まれるようになった。また金朝の公印は軍職の増加に伴い、同じ名称の公印が複数存在し、番号が付けられるようになった。

 

- 元朝の公印:元朝の公印には漢文印と八思巴文印の二種類があり、八思巴文印が元朝の標準印章として使用された。元朝の公印の特徴としては、印面構成において印辺が非常に広くなっている点が挙げられる。

 

宋王朝時代は書法面でも印章が多様化していたので、金大堅(きんだいけん/jīn dà jiān)の刀法(彫刻)の腕がどれだけ良くても、元の書の形が手元になければどうにもならない。こうして考えてみても、彼の刀法と蕭讓(しょうじょう/xiāo ràng)の書法は、この上なく技能面での相性が良いコンビだと言える。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 無一訛刻(具術)

**説明**: 金大堅は、誤りのない精緻な彫刻を行い、この上なく上質な兵符、印信、牌面を創り出す能力「無一訛刻」を持っている。この具術は、彼の卓越した彫刻技術と細部へのこだわりに基づき、極めて正確で精巧な作品を作り上げる力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(とても濃い)**: この具術は、彫刻道具と素材に強く依存する。

  - **思考性(中程度)**: 効果的に彫刻を行うためには、高い技術と正確さが必要。

  - **関係性(中程度)**: 金大堅の具術は、信頼性の高い兵符や印信を作成し、組織内外での信頼を築くのに寄与する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **兵符や印信の制作**: 金大堅は、極めて精巧で正確な彫刻技術を用いて、上質な兵符や印信を作成する。
  2. **細部へのこだわり**: 金大堅の彫刻技術が、あらゆる細部において精度と美しさを兼ね備えた作品を生み出す。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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