天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 102】郭盛

郭盛

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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郭盛(かくせい/guō shèng)

 

<三元論に基づく個性判定>

15番 **とても強い生存欲求**、**とても弱い知的欲求**、**弱い存在欲求** - **「行動派の実践家」** - 理論よりも実践を重視し、具体的な行動によって物事を解決する。

 

<概要>

郭盛(かくせい/guō shèng)、四川嘉陵の出身。方天戟(ほうてんがげき:先端に月のような半円型の両刃がある長矛 ※後述参照)の使い手。あだ名は「賽仁貴」。これは実在の猛将である「薛仁貴(唐王朝で浮き沈みの激しい波乱の人生を送り、後に小説や談話などの題材になった事から有名になった猛将)」を「賽(超える)」という意味で名付けられた。もともとは水銀(当時は鏡の製造などに用いられた)を取り扱う商売をしてたが、商材を載せた船が黄河で転覆して帰郷出来なくなって落草。山賊として活動している最中、対影山に自分と同じ戟の使い手がいると聞いて大いに関心を持ち、その呂方(りょほう/lǚ fāng)という人間とひとつ勝負をしてやろうと挑戦へ向かった。そうして、白い衣を着た郭盛と赤い衣を着た呂方が戟を用いて華麗に闘い合っていた最中、死罪から救われた宋江(そうこう/sòng jiāng)たちが付近を通過。郭盛(かくせい/guō shèng)と呂方(りょほう/lǚ fāng)の戟がちょうど絡み合っていた所を花栄(かえい/huā róng)が矢で射抜き、二人がこれにて休戦。この縁から郭盛(かくせい/guō shèng)と呂方(りょほう/lǚ fāng)は梁山泊勢力に合流。百八人の英傑たちが集結した大聚義(だいしゅうぎ/dà jù yì)の際、郭盛(かくせい/guō shèng)は序列第55位に定まり、「司令部護衛騎兵驍将」に任じられた。招安後、南征北伐においては前線で活躍。その後、彼は最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦において、江南の烏龍嶺を攻める際に山上から飛んできた大石に馬ごと打たれて戦死。戦後、朝廷は彼を「義節郎」に追封した。

 

<方天戟>

※画像:百度百科「方天戟」より引用

 

方天戟は、鉄製の槍の先端に「月牙(つきば)」と呼ばれる刃が両側に付いた長い武器だ。両側に対称の月牙の刃があるものを方天戟と呼び、片側にのみ月牙の刃があるものは青龍戟または戟刀と呼ばれる。架空世界でこの武器を用いた名人は『三国演義』の呂布だ。

 

月牙は斬る、叩き切るなどの攻撃に用いられるが、その形状から「刺す際に刃が深く入り過ぎるのを防ぐ」という役割を同時に果たしていたらしい。深く入り過ぎてしまうと次の迎撃に遅れを取る可能性があるので、それを防いで有利に戦いを進められるという算段である。

 

<むしろ"無派閥">

いわゆるシークレットサービスに相当する司令部護衛の職務は、以前取り上げた孔明(こうめい/kǒng míng)、孔亮(こうりょう/kǒng liàng)の兄弟が歩軍として担当をした。今回の郭盛(かくせい/guō shèng)、そして彼と共に梁山泊入りを果たした呂方(りょほう/lǚ fāng)の二名は、その騎軍(騎馬を用いた武人)を務めた。私の考察では孔兄弟は展開宋江の信頼を得る可能性が十分にあるが、今回の郭盛と呂方は「ただ通りかかって出会った」というだけであり、しかもその両名にほとんど面識がない。これでは宋江が命を預けるだけの信頼が無さそうだ。(そのあたりの脆弱な伏線を改修しようと思ったようで、 2005年に製作された高羽栄による漫画『水滸志』では、郭盛と呂方は宋江の愛人として描かれているそうだ。)

 

私はもう少し現実的に、なぜ彼らが宋江の護衛役に任命されたのかについて考察を試みたい。その際、梁山泊勢力が"白黒(黒社会・白社会)"が入り乱れた雑多な英傑集団であった事が考察の起点になるように思う。梁山泊共同体は確かに時機と美徳が偶然にも重なって強靭な団結を獲得したが、それは決して一枚岩という訳では無かったのだ。彼らは水面化においては「五派閥」に分かれていた。それは次のような関係性だったと言われている。

 

### 1. 宋江

**派閥長**::宋江

**主な信念**:天の代わりに歪んだ世を正したい

**実力**: 宋江梁山泊の実質的な指導者だ。軍師の呉用(ごよう/wú yòng)、忠実な部下の李逵(りき/lǐ kuí)、射術の名手である花栄(かえい/huā róng)など、心から信頼できる仲間が多く含まれている。宋江の持つ良識と美徳がもたらす人望と確かな信念が求心力である。

 

### 2. 朝廷降将派

**派閥長**:関勝

**主な信念**:屈辱を晴らしてかつての栄光を取り戻したい

**実力**:梁山泊五虎将の筆頭株である関勝(かんしょう/guān shèng)は圧倒的な戦闘力と戦術眼を持つ、元朝廷側の名将だ。彼のように朝廷側に属していた者が梁山泊勢力に合流した武人は国家や行動倫理について類似する価値観を持ち、また個々の戦闘力も非常に大きなものである。

 

### 3. 三山派

**派閥長**: 魯智深

**主な信念**:腐った役人や悪しき賊たちを成敗したい

**実力**: 魯智深(ろちしん/lǔ zhì shēn)の武勇や存在感は梁山泊でもトップクラス。彼は山賊として勢力を率いた時代において、三山(二龍山勢力、桃花山勢力、少華山勢力)を率いる求心力としても機能した。楊志(ようし/yáng zhì)、武松(ぶしょう/wǔ sōng)など、個性に富む武人が揃っている。

 

### 4. 晁蓋遺老派

**派閥長**:公孫勝 

**主な信念**:天意の導きに呼応して自らの使命をまっとうしたい

**実力**:公孫勝(こうそんしょう/gōng sūn shèng)や劉唐(りゅうとう/liú táng)のように、戦死した梁山泊の元塞主である晁盖(ちょうがい/cháo gài)のもとに集まっていた英傑には特別な絆があった。公孫勝老荘思想的な俯瞰した信念を持つ為、彼の派閥内もどことなく現実感覚が薄い。

 

### 5. 登州派

**派閥長**:孫立

**主な信念**:大局を鑑みて最も適切な行動選択をしたい

**実力**:孫立(そんりつ/sūn lì)は登州派のリーダーだ。梁山泊の五虎将にも匹敵する実力を持つが、常に非常に慎重に物事を判断しながら、弟や縁のある英傑たちを巧みにまとめ上げている。全体的な技能の水準は他の派閥より劣る面があるが、その団結力は非常に強い。

 

———このように梁山泊勢力における派閥を捉え直してみると、宋江としてはどれだけ武芸の技能水準が高くても、他の派閥の人員を自分の周囲に置く事はあまり心地の良いものでは無かったと思われる。「朝廷降将派」「三山派」は戦闘力が極めて高いので司令部に留めるのは惜しい。「晁蓋遺老派」はどこか浮世染みていていざという時の底力が発揮されない懸念がある。「登州派」は(絶対に有り得ないとは思いつつも)、いざという時に宋江の命よりも登州派の仲間の命を優先するかもしれないのだ。

 

それでは「宋江派」からボディーガードを登用するべきだという話になるが、こちらも全員が既に特殊技能に応じた要職に就いており、司令部に留め置く事は適切ではない。となると、むしろ残るは「無派閥」かつ「戦闘力が極めて高い」という人物だ。例えば、道中で偶然に出会ったような、良識と美徳を併せ持つ剛腕の武人がいれば最適である。

 

という訳で、おそらく郭盛(かくせい/guō shèng)と呂方(りょほう/lǚ fāng)は「それまで何の縁も関係も無かった」からこそ、司令部の護衛役に選ばれたのではないかと私は考える。

 

<湯隆(とうりゅう/tāng lóng)との関係も改修の余地あり>

梁山泊勢力に大砲技術をもたらした湯隆(とうりゅう/tāng lóng)は爆薬の専門家。これは明王朝時代の施耐庵(したいあん/shī nài ān)が少々強引に持ち込んだ設定で、宋王朝時代にはまだ実戦レベルで活躍できる大砲は存在していなかった。だが、時代考証はさておき、大砲があるとすれば、起爆剤として「雷酸汞(汞は中国語で水銀のこと:実際には18世紀頃に誕生)」の存在がほんのりとあっても良いように感じられる。それに類似する火器が開発されたという展開があっても、物語設定としては面白い。

 

となると、雷酸汞の製造に用いられる「水銀」の調達は、かつてそれを生業にしていた郭盛(かくせい/guō shèng)の役目という事になる。彼の人物造形の説得力を高めるという点で、これも改修事項として一考の余地があると感じる。

 

※雷酸汞はノーベルが開発したダイナマイトにも用いられた起爆剤。ちょっとした衝撃だけでも爆発するので、かなり慎重に取り扱わなければならない。「雷酸汞」に類似する爆薬を『水滸伝』に適用するとしても、「ぽんぽん手榴弾のように放り投げた」のではなく、「罠として設置した」程度の描写が妥当だと思われる。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 方天画戟(具術)

**説明**: 郭盛は、方天戟を巧みに扱うことで、自己の周囲の防御力を大きく向上させる能力「方天画戟」を持っている。この具術は、彼の卓越した武器操作と戦術的な判断力に基づき、戦場での生存率を高める力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(とても濃い)**: この具術は、方天戟という特定の武器に強く依存する。

  - **思考性(中程度)**: 効果的に防御力を高めるためには、高い武器操作技術と戦術的な判断力が必要。

  - **関係性(中程度)**: 郭盛の具術は、彼自身と仲間たちを守るための防御力を強化し、戦闘での優位性を保つのに寄与する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **防御戦術の強化**: 郭盛は、方天戟を巧みに操り、敵の攻撃を防ぎつつ、自己と仲間たちの防御力を大幅に向上させる。
  2. **戦場での生存率向上**: 郭盛の方天戟の扱いが、戦場での生存率を高め、敵に対して有利な状況を作り出す。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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