天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 016】張青

張青

 ※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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張青(ちょうせい/zhāng qīng)

(※日本語の訓読みが同様で字面が似ている、騎兵八驃騎先鋒隊長の「張清(ちょうせい/zhāng qīng)」とは完全に別人。兄弟や親族でもない。)

 

<三元論に基づく個性判定>

14番 **とても強い生存欲求**、**とても弱い知的欲求**、**強い存在欲求** - **「直感的な協調者」** - 知識よりも直感や感覚を重視し、他者と協力して物事を進めることを得意とする。

 

<概要>

水滸伝』の百八の英傑たちの中には、紆余曲折を経て結ばれた三組の夫婦がいる。その夫婦の中でも、この張青(ちょうせい/zhāng qīng)と孫二娘(そんじじょう/sūn èr niáng)の両名は大いに「倫理的な物議」を放つ設定を有する存在だ。張青のあだ名は「菜園子」であり、朴刀(宋王朝時代に開発された大刀と短刀の間にある、長い幅広の銅の刀身が付いた剣)の使い手。孟州(現在の河南省焦作市)出身。あだ名の由来は、その孟州の光明寺で菜を育てていた為であるが、いさかいを起こして仏僧を殺害し、大樹坡に逃亡して山賊に落草した。その山賊稼業をしている際に孫二娘と出会い、二人は結婚。十字坡で酒店(旅館兼食事処)を開店し、部下たちと共に「蒙汗薬(痺れ薬:後述参照)を使って通行人を殺し、金品を奪って、"人肉包子"を販売する(後述参照)」という事業を展開した。その後に二竜山で山賊勢力を形成していた魯智深(ろちしん/lǔ zhì shēn)、楊志(ようし/yáng zhì)に加わった。その二龍山勢力が梁山泊勢力と合流した事で百八英傑の一員となり、序列は第一百二位、職務は「梁山泊四店情報募集来賓接待長(酒店を通じた情報収集と来賓客の対応)」を担当。妻の孫二娘と共に西山酒店で任務を遂行した。最終戦の方臘(ほうろう/fāng là)との戦闘時、歙州の戦いで殉死。死後、朝廷は彼に義節郎の称号そ追贈した。

 

<蒙汗薬(もうかんやく/méng hàn yào)>

蒙汗薬は主に植物の「曼陀羅Datura stramonium L.)」から生成される痺れ薬。中国南西部の省で栽培されている風茄子、洋金茄花、山茄子などからも作る事が可能。『水滸伝』に登場する蒙汗薬は現在用いられておらず、伝承によれば「曼陀羅の花を乾燥させ、細かい粉にする」という製法が適用されたようだ。人の交感神経を遮断し、中枢神経系を抑制する効果(麻酔や鎮痛)の効果を発揮する。誤って蒙汗薬を飲んだ場合、あるいは誰かに飲まされた場合は、冷水を顔にかけたり、気つけの効果のある薬湯を強制的に飲ませたりする事によって効果を打ち消す事が出来たようだ。

 

<人の部品をどう扱うか>

中国のみならず、世界や時代を問わずに散見する食人文化。我々現代人から見ると「猟奇的」「非人道的」「野蛮」な文化であり、到底それを受け入れる事は出来ないだろう。だが、この文化はそう短絡的に片付けられるようなものではない。食人が起こる要因は異常犯罪の他、「①飢餓による最後の生存手段」「②宗教や迷信に伴う儀礼」「③大きな悪事に及んだ人物に対する報復」といった要素が存在する。例えば、以前の記事で取り上げた、北宋初期に活躍した実在の猛将、楊業(ようぎょう/yáng yè)は、息子たちが疫病に罹った時に自分の太腿の肉を少し削り、これを汁物にして彼らに食べさせたという逸話がある。これは②の迷信(超人的な人間の肉を食べると自己回復力を向上させる事が出来るという民間療法)に基づくものである。また、『水滸伝』が作られた明王朝時代に奸臣として国内政治を大混乱に貶めた劉瑾(りゅうきん/liú jǐn)は最終的に凌遅刑に処され、彼の人肉が販売されたと記録にあり、それは③の報復の意図があった。近年の事例では1972年に起きたウルグアイ空軍機571便遭難事故では生存者が生き残る為に遺体の肉を食べるしかなかった事を証言しており、これは①の最終の生存手段である。(この壮絶な事故と生還記録は何度か映画化されており、最近の作品としてはNetflixが2023年に製作した『雪山の絆』がある。)

 

肉だけではなく視野を広げれば、人間の部品をどのように尊び、どのように取り扱うかという命題の答えは常に流動をし続けている。キリスト教エホバの証人の一部派閥が「どのような緊急事態においても輸血措置を禁忌とする」という教義を守っているように、輸血も臓器移植も神を愚弄する行為であると考える者もいる。あるいは逆に、パプアニューギニアコロワイ族がつい最近まで食人文化を踏襲していたという事例や、胎盤療法やさい帯血移植は医療行為として多くの国で認められているという現実もある。

 

要するに、食人文化はそれそのものが問題ではなく、そこに我々が納得し得る目的・意義・根拠があるのかという点が問題なのだ。

 

<三元論に基づく改修>

張青と孫二娘の"人肉饅頭"の稼業は、これを聞く限りにおいてはあまりに醜悪な行為だ。この夫婦は十字坡で酒店を開いた後、蒙汗薬を使って通行人を気絶させて殺害。大きな肉片は牛肉として、小さな肉片は饅頭の餡にした。作中では、この噂が「大樹十字坡、客人誰敢那里過?肥的切做饅頭餡、瘦的却丢去填河。(大樹の十字路、誰がそこを通りたがるだろうか?肥えた者は饅頭の餡にされ、痩せた者は川に捨てられる。)」という内容で、地元の江湖周辺の人々に広まっていたとされる。娯楽作品ゆえにそれほど深刻な気分にはならないものの、やはり真剣に出来事や設定を追うと倫理的な議論を巻き起こすような内容である。『械胡録』では一定の改修が必要になるだろう。

 

- 事象の改修:前回の映画『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』の記事で取り上げた同作品のプロットを適用するべきだろう。すなわち、人を殺して肉として食べる行為に目的・根拠・意義(上述における③の「報復」)を明確に付与するのだ。腐敗した役人によって虐げられて没落した孫二娘が、復讐の為に腐った役人を痺れ薬で殺し、人肉饅頭として売り捌く事業を開始するのだ。張青はその彼女の行為を知り、愛情もあって自ら協力を買って出る。中国の大河ドラマ水滸伝 All Men Are Brothers(2011)』でもこの改修が一部導入されていたが、最終的には上手く機能しなかったように感じられた。

- 心理の改修:『水滸伝』で描かれた性格上、直情型の孫二娘がスウィーニー・トッド、協調型の張青がパイ店の女主人の性質を担うと自然に馴染む。

- 関係の改修:この夫婦は魯智深(ろちしん/lǔ zhì shēn)と武松(ぶしょう/wǔ sōng)にも痺れ薬を飲ませて殺そうとするのだが、上述の改修に伴って彼らとの関係性にも変化を与える必要がある。例えば、魯智深(ろちしん/lǔ zhì shēn)の場合は地元の噂を聞き、その極悪人を成敗してやろうと張青らの店に乗り込んだという設定にするべきである。武松については、兄の仇を取る大乱戦の末に偶然張青らの店付近で倒れたという設定ではなく、義兄弟として助けを乞いに自ら店を目指したという設定にするべきである。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 愛の加護(心術)

**説明**: 張青は、愛する者の覚悟の行動が成就しやすくなる能力を持つ。この心術は、彼の深い愛情と献身が愛する者たちの運命に良い影響を与え、彼らの決意を実現させる力を持つ。

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この心術は、道具に依存せず、張青の精神的な愛情と絆に基づく。

  - **思考性(中程度)**: 愛する者たちの行動を支援し、成功に導くためには、高い洞察力と共感が必要。

  - **関係性(とても濃い)**: 張青の心術は、愛する者たちとの関係を深め、その絆を強化する。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **支援と励まし**: 張青は、愛する者たちが困難な挑戦に直面したときに、彼らを励まし、支援することで、その行動の成功確率を高める。
  2. **共感と理解**: 張青は、愛する者たちの気持ちを深く理解し、彼らの意志を尊重することで、彼らの行動が実を結ぶように導く。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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