天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

優しい嘘療法は小さい無害な偽り

Shattered Glass

私:2003年製作の、実話を基にしたアメリカ映画『Shattered Glass(邦題:ニュースの天才)』を簡単に紹介してくれる?

 

ChatGPT:『Shattered Glass』(邦題:ニュースの天才)は、2003年に公開されたアメリカ映画で、実話に基づいています。この映画は、若くて有能なジャーナリスト、スティーブン・グラスが、著名なニュース雑誌「ザ・ニュー・リパブリック」での彼のキャリアと、その崩壊を描いています。

 

グラスは、記事の大部分を捏造していたことが発覚し、ジャーナリズムの世界での大きなスキャンダルとなりました。映画では、彼の才能と魅力、そして嘘がどのように彼の同僚や上司を欺き、最終的には彼のプロの生活を破壊するまでを描いています。

 

この物語は、ジャーナリズムの倫理と責任に関する重要な問題を提起し、観客に報道の信頼性と真実性を問い直させる内容となっています。スティーブン・グラス役はヘイデン・クリステンセンが演じ、彼の演技は高い評価を受けました。監督はビリー・レイが務めています。

 

私:スティーブン・グラスという元記者の紹介をしてくれる?

 

ChatGPT:スティーブン・グラスは、アメリカの元ジャーナリストで、1990年代後半に大規模なジャーナリズムの不正行為で有名になりました。彼は1972年生まれで、若くしてジャーナリズム界で注目を集めました。グラスのキャリアは、特に「ザ・ニュー・リパブリック」という著名な雑誌での仕事によって際立っていました。

 

彼は才能があり、魅力的な記事を書く能力で知られていましたが、1998年に彼の記事の多くが完全な捏造、あるいは事実と大きく異なる内容であることが明らかになりました。この発覚は、メディア界における倫理と信頼性に関する大きな議論を引き起こしました。

 

グラスは、自分の記事の信憑性を高めるために架空のソース、イベント、会社を作り出していました。彼の行動は、その後のジャーナリズム業界における厳格なファクトチェックと透明性の重視に大きな影響を与えました。

 

スキャンダル後、グラスはジャーナリズム界を離れ、法律の分野に進みました。しかし、彼の過去の不正行為が原因で、法曹界でのキャリアも困難なものとなっています。彼の物語は、2003年の映画『Shattered Glass』で広く知られるようになり、ジャーナリズムの倫理についての重要な議論を促しました。

 

-------------------------------

 かの日本人メジャーリーガーは極めて難しい立場に追い込まれたものだ。正直に話せば人間性を保てるが野球選手の座を降りなければならず、嘘をつけば野球を継続出来るが人間性が瓦解する。事が大きいほど、嘘をつく大きさも回数も膨れ上がる。これはもはや、社会的制裁の問題ではない。"罪と罰"をどこまで割り切れるかという、彼自身の精神的な問題である。

 多くの過ちを認めざる人間がそうするように、沈黙と風化に期待を寄せるのだけは絶対に止めるべきだ。それは人々からの信頼も、自分自身に対する信頼も裏切る対応であって、それを行えば信頼を回復するまでには予想を超える時間と労力を要する。多くの場合、それはそれはその人物が生きている間には訪れない。ちょうど昨日、ひき逃げ事件を引き起こした芸能人が再びテレビ番組に出たようだが、(同氏の仲間以外で)彼の人間性を以前のように信用する者は現時点で誰ひとりいないだろう。誠実さを示すべき責務から逃れ続けた臆病者の報いは非常に大きい。

 

人而無信、不知其可也、大車無輗、小車無軏、其何以行之哉。(人としての信頼が無ければ、何事も上手くはいかない。信頼とは馬車を動かす為に必要な輗、軏のようなもので、それがなければ馬車は絶対に動かないのだ。)──

 

 命を賭してでも誠実さを遵守せよと教え続けていた、春秋時代孔子こと孔丘先生。彼はちょっとした兼ね合いや方便の類でさえ、虚偽と名の付くものを一切口にしなかった。だからこそ彼は偉大な論理学者として名を刻み続けているのであるし、また、だからこそ各国の嘘つき(政治家)達が彼を煙たがって重用しなかった。ソクラテス同様、あまりに純粋な論理学者は理想と現実、嫌悪と尊敬、孤立と孤高、双方の性質を帯びている。

 先の映画『ニュースの天才』は孔子とは真逆で、嘘をつき続ける事によって巨大な名声と報酬を獲得し続けた承認的希求(私の三元論に基づく「存在欲求」の一事項)の中毒者、アメリカの若手記者スティーブン・グラス氏の"活躍"を描いている。グラス役を演じるのは『スターウォーズ』においてアナキン青年役を演じた俳優ヘイデン・クリステンセン。製作総指揮に俳優トム・クルーズが噛んでいる。当初、グラス役の俳優として本人のキャスティングが打診されていたが、本人はこれを断った。改めて現在の顔を出す危険よりも権利をお金に換える方が気楽だと考えたのか、それとも本当に自身を戒めて表舞台に立つべきではないと考えたのか、それは分からない。もっとも、当時の彼が自伝の出版やメディア・イベント等の露出を積極的に行っていた点を考えると、事件後も魂の中で承認的希求の火種がくすぶっていたように感じられる。映画出演の拒絶は単純に、いつもの通り演技をしている自分を客観的に眺めたくないと考えたのかもしれない。

 ただ、2021年に執筆されたIndy Week誌(ノースカロライナ州の週刊誌)の1本の短い記事を頼りにするなら、この"嘘つきグラス"の人生は皮肉にも、何やら感動すら帯びた新たな局面を迎えたようだ。グラスは捏造事件発覚後、改心を誓って法曹界を目指して司法試験に合格したが、弁護士協会から弁護士活動を認可されなかった。その苦労の中で、彼は弁護士ジュリー・ヒルデンと出会って結婚をする。彼らはロサンゼルスに移住し、法律事務所で働きながら穏やかな生活を続けたが、2013年、46歳のヒルデンが若年性アルツハイマー病を発症する。ここから、グラスは最愛の人の為に「Therapeutic fibbing」という治療を毎日続ける事になる。「Fibbing」とは、「意図的にごまかす、曖昧にする」といった意味のある単語だ。この治療を日本語に訳するのなら「優しき嘘療法」が的確だ。

 アルツハイマー病や他の認知症を抱える人々は、突飛でもない虚言や妄想を行う事が頻繁にある。例えば、既に亡くなっている人の事を生きているように話したり、とんでもない過去の出来事を引っ張り出し、まるでそれが現在進行形であるかのように扱ったりする。「存在的要素(時系列や事物との関係性)」に関する彼らの脳内の箱が壊れてしまって、中にあった書類が滅茶苦茶に散乱してしまうのである。この時、介護者が孔丘先生ばりに「何を言っているんだ!そんな事は無い!」と激怒しても、相手は悪意なく本当にその虚言や妄想を信じ込んでいるので、落胆をしたり怯えたりと、ただ苦痛を与えるだけになってしまう。だから、介護者は彼らに「嘘をつく」必要がある。亡くなっていると分かっている人の事を語り始めた時も、理解できない出来事をこまごまと語り始めた時も、「そうだね」と相槌を打ってあげる。これは彼らの心の不安を和らげる為に不可欠な「小さくて無害な偽り」であり、人として忘れてはならない大切な思いやりでもある。
 介護者にとって、自分が嘘つきになる事は苦痛である。だが、それ以上に彼らが苦しんでいる事を考えれば、自分の苦痛などごく僅かなものだ。"嘘つきグラス"は、かつては自己の利欲の為に、今は他者への愛情の為に、嘘をついている。それは天が彼に与えた"罪と罰"なのかもしれない。

 

※画像:DALL-E

※補足:私はこのIndy Week誌の記事について十分な検証を得る事が出来なかった。他の関連記事や参考資料が一切見当たらないのである。よって、これもまた捏造ではないか(グラスがインタビュー時に嘘をついたのではないか)という印象を受ける。往々にして虚言を積み重ねた人間は自分の虚言と妄想を信じ込む事に慣れてしまうものだ。

※追記:メジャーリーガーの大谷選手と、彼の元通訳である水原を巡る違法賭博事件について進展があった。この事件は大谷選手の金が水原を介して違法賭博業者に流れていたというものである。2024年4月、アメリカ司法当局がこの事件に対し、「大谷選手の完全無罪」と「水原の窃盗確定」に関する声明を出した。私は本記事を書いた段階で、情の厚い大谷選手が水原の賭博癖を知りながら一部肩代わりをしたものと完全に信じ込んでいたが、それは事実と異なるものであった。(大谷選手に大変申し訳なく思う。猛省する。)大谷選手の金銭管理に対する見事な間抜けっぷりは否定し得ない所だが、彼がまごうことなき純然たる窃盗の被害者であった事が証明された訳だ。そして捜査当局の調査内容によれば、何と水原は自身の窃盗の重罪から何とか逃れる為に、ソウルのホテルで大谷選手に対して「君が俺の借金を肩代わりした事にしてくれ」などと口裏合わせを頼み込んでいたという。世間を探しても、このような賭博狂いの泥棒屑野郎を見つけることはなかなか稀だろう。「吾道一以贯之(我が道一を以てこれを貫く)」。仁義を一滴たりとも持たなかった小人が最初から存在しなかったとして、大谷選手が引き続き野球の道を颯爽と駆け抜ける事を切に願う!頑張ってくれ!

 

作品紹介

ニュースの天才

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

Amazon