天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 105】凌振

凌振

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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凌振(りょうしん/líng zhèn)

 

<三元論に基づく個性判定>

42番 **弱い生存欲求**、**弱い知的欲求**、**強い存在欲求** - **「直感的な協力者」** - 直感を重視し、他者と協力して実践的な活動を行う。

 

<概要>

水滸伝』の作者である施耐庵(したいあん/shī nài ān)は、以前もどこかで触れた作家ドストエフスキーばりの「登場人物名の隠喩」を各所で使っているように思う。凌振(りょうしん/líng zhèn)もその一人だろう。まさに彼の特殊技能は「他を凌いで」「振れる(震える)」ものである。

 

「大砲(火砲)」の凌振(りょうしん/líng zhèn)。あだ名は「轟天雷」。燕陵の出身で、火砲(※後述参照)の製作に長けており、「宋朝天下第一の砲手」と称される官軍の一員であった。この火砲は十四~五里(約7~8km)の射程距離があり、しかも凌振(りょうしん/líng zhèn)本人と彼が指導した砲手は正確な位置に爆撃する事が出来た。更に武芸にも通じており、弓馬の扱いにも慣れたという剛腕の者だ。在籍していたのは東京甲仗庫の副使であり、梁山泊勢力と朝廷軍が衝突をした際に呼延灼(こえんじゃく/hū yán zhuó)軍の後方支援に回った。この戦いの中で梁山泊勢力に生捕りにされたが、宋江(そうこう/sòng jiāng)たちの真っ直ぐで情熱的な志に感銘して梁山泊に帰順する事を決意。百八人の英傑たちが集結した大聚義(だいしゅうぎ/dà jù yì)の際、彼は序列第52位に定まり、「一切大小号砲製造管理」に任命された。以後、全ての戦いにおいて砲手及び砲撃製造の管理者として活躍。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦も生き抜き、戦後は朝廷の火薬局に所属して活躍を続けた。

 

<非常に珍しい「火器」の使い手>

水滸伝』『三国演義』『封神演義』など始め、中華世界の歴史を舞台とした娯楽物語には雷を落としたり幻覚を引き起こしたり、あるいは1日三百里を走り抜けたりする外連味たっぷりの異能才子たちが多数いる一方で、実は冷武器(通常の矛や剣など)以外の「火器(銃や大砲など)」を用いる人物はほとんどいない。しかも、凌振(りょうしん/líng zhèn)が用いる「火砲」には、子母砲、金輪砲、風火砲、車箱砲、轟天砲など様々な種類があり、小説ではこれらがそれぞれ実戦で十分に通用する効果を持つ事が描かれているので、これまた非常に貴重な人物造形であると言える。

 

中国古代〜中世を舞台にした歴史物語に「火器」の使い手がいないのは、それらの時代にはまだ戦いに使えるような火器が存在しなかったからだ。『水滸伝』の舞台である北朝王朝(11世紀頃)も火薬を用いた武器はほとんど戦いの場では使われていなかった。作者の施耐庵(したいあん/shī nài ān)はそれから3世紀先の元王朝末期、明王朝初期に活躍した人物であり、この頃になるとだいぶ火器の応用範囲が広がっていた。作者は自分の時代にある火器を、物語の北宋王朝時代に持ち込んだものと考えられている。

 

ただ、原作では「火砲」の効果は描かれているが、その装填、発射、製造の方法についての記述は非常に曖昧だ。そこで読者や研究者の中には「施耐庵がこの火砲を何と捉えていたのか」という点で、別の説を持つ者もある。この説の候補としては、「投石機」「爆竹「火薬を使用した管状の火砲」等がある。

 

2013年製作の中国歴史娯楽ドラマ『水滸伝』を筆頭に、近代において派生している「火砲」はほとんど全て現代人が想像する「大砲」に置き換えられている。しかし、学術界では「革新的な投石機説」を支持する者が増えているという。火薬を用いて石を飛ばす兵器、という訳だ。それも原理的には大砲の一種であり、また大型銃の一種であると言える。どの説も面白いと思う。

 

私としては、せっかく原作で子母砲、金輪砲、風火砲、車箱砲、轟天砲などの名前が異なる様々な種類の「火砲」が登場しているので、それぞれを別の機構の大小の大砲にするべきであると思う。梁山泊勢力には無尽蔵の知識量を持つ"武器オタク"の徐寧(じょねい/Xú Níng)、多角的な着眼点にも富んだ"天才的な鍛冶職人"の湯隆(とうりゅう/tāng lóng)がいるので、彼らと共同開発をすれば武器開発研究者「Q」(スパイ映画『007』シリーズで主人公ジェームズ・ボンドの武器を開発する人物)のように、様々な「火砲」を生み出せたはずだ。彼らとの連携場面や開発の説明などを物語に盛り込むと、更に武器の効果や人物造形に対する説得力が高まると思われる。

 

<技術がそれほど尊ばれなかった興味深い歴史の体現者>

中華世界と中東世界は歴史的に科学技術開発の聖地である。それにも関わらず、中華世界では歴史的に科学技術やそれに携わる職人をそれほど重視しなかった。実は紀元前の春秋戦国時代には「科学技術による合理的な社会の構築」を目指した墨家集団(墨子を指導者とする職人主体の組織)のような極めて未来的な研究開発チームも誕生しているのだが、「文官が最上位、武人はその次か同じぐらい、その下に商人、その更に下に農民や職人などの平民」という揺るぎない観念から彼らは敢えなく消滅してしまった。(墨家集団が再注目されるのは20世紀先の清王朝まで向かわねばならない。)

 

この中華世界の興味深い「論理学至上主義」「科学技術至下主義」とも言うべき社会通念が、凌振(りょうしん/líng zhèn)という架空の人物にも影響した。明王朝時代以後、『水滸伝』は爆発的な人気をもたらす大衆小説となったが、「火砲の凌振」という現代の童心をくすぐるような極めて魅力的な人物はまったく注目されて来なかった。施耐庵(したいあん/shī nài ān)当人もそれほど彼の描写には力を入れておらず、物語内で朝廷や梁山泊勢力が彼を重用した様子は無い。評論家たちが彼を稀有な科学技術の人材と見なすようになったのは近代に入ってからなのだ。

 

近代の科学的発展を目の当たりにしながら中華世界の革命を思い描いていた作家の魯迅が、「外国用火药制造子弹御敌,中国却用它做爆竹敬神(外国は火薬で弾丸を作って敵を防ぐが、中国はそれを爆竹にして神を敬う)」と嘆いている。科学技術(道具)が行き過ぎた現代人からすると、少し論理学方面(思考)に社会を戻しても良い気がするが、魯迅がいた時代は凌振(りょうしん/líng zhèn)のような科学者が必要だったのだ。

 

<所見>

上のような状況を鑑みると、凌振(りょうしん/líng zhèn)は人物造形、特に心理面で改修を検討する価値のある人物だ。彼は墨家集団やジーン・ロッデンベリー(『スタートレック』シリーズの生みの親)のように、「科学技術を通じた平和社会の実現」という夢を描いていた人物にするべきだと思われる。それによって彼自身の造形の説得力と存在感が格段に上がり、また一種の隠喩も反映する事が出来る。

 

私たちは未来人として、その科学技術主体の理想社会を追求し続けた結果、多くの光と多くの影を生み、一部においてはかえって自分たちの未来の首を絞める結果となってしまった事を知っている。彼がきらきらした目で語る理想社会を、公孫勝(こうそんしょう/gōng sūn shèng)あたりが「お前は道というものを全く分かっていないな。陽が当たれば明るい場所と暗い場所が出来るものだ」といった具合に否定するような対話場面があって良い。

 

※もう一歩踏み込んだ改修としては、彼が呂方(りょほう/lǚ fāng)が調達した水銀を用いて起爆剤を開発した所、その過程で爆発事故や水銀中毒による死傷者が発生し、自身も負傷したという事件を描いても良いかもしれない。このあたりは前後の文脈や展開同士の整合性を鑑みながら調整したい。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 轟天雷(具術)

**説明**: 凌振は、類まれなる練度と精度を併せ持つ砲手技術および火砲製造技術によって、研ぎ澄まされた兵器開発と火砲攻撃を行うことができる能力「轟天雷」を持っている。この具術は、彼の卓越した技術と戦略的な判断力に基づき、戦場で圧倒的な火力を発揮する力を持つ。

- **効果**:

  - **道具性(とても濃い)**: この具術は、火砲や兵器の製造と操作に強く依存する。

  - **思考性(中程度)**: 効果的に火砲攻撃を行うためには、高い技術と戦術的な判断力が必要。

  - **関係性(中程度)**: 凌振の具術は、戦場での火力を強化し、敵に対して圧倒的な攻撃を行うことで、仲間たちの戦闘力を高める。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **火砲の開発と運用**: 凌振は、高度な技術を駆使して、耐久性と精度に優れた火砲を開発し、戦場で効果的に使用する。
  2. **圧倒的な火力支援**: 凌振の火砲技術が、戦場で圧倒的な火力支援を提供し、敵に対して大きなダメージを与える。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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