天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 089】蔡福

蔡福

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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蔡福(さいふく/cài fú)

 

<三元論に基づく個性判定>

18番 **強い生存欲求**、**とても強い知的欲求**、**強い存在欲求** - **「戦略的思考者」** - 知識と戦略を駆使して目標を達成し、他者と協力しながら計画を実行する。

 

<概要>

蔡福(さいふく/cài fú)と蔡慶(さいけい/cài qìng)。原作では彼らは兄弟であるが、私は彼らの状況を十分に鑑みて、これを祖父と孫娘にするべきではないかと考えている。蔡福(さいふく/cài fú)が祖父、すなわち中年以上の男性であると考える理由は、原作における彼の立ち回りが非常に老練であるから。彼は非常に難儀な立場に追い込まれながらも二重スパイとして非常に巧みに立ち回り、ひとつの選択も間違える事なく最適解となる行動選択に及んだ。これは相当な政治的経験が無ければ不可能であり、ただの若い処刑人には不可能な所業である。そして、蔡慶(さいけい/cài qìng)をその孫娘にする理由は、まずは単純にこの人物がいつも一輪の花を頭に挿していた事、そして機転の利かせ方が非常に若々しいものであると感じる事、この2点である。多少強引ではあるが、存在感と説得力が薄れやすい蔡福(さいふく/cài fú)と蔡慶(さいけい/cài qìng)の改修事項としては有効であると考えられる。

 

まずは、原作の概要を記す。蔡福(さいふく/cài fú)は、蔡慶(さいけい/cài qìng)の兄。あだ名は「鉄臂膊(鉄の腕)」、出身は北京大名府(現在の河北省邯鄲市大名県)。ここは梁山泊勢力に入る前の盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)が名家の豪商として活躍していた地でもある。この大都市において、蔡福(さいふく/cài fú)は牢役人兼死刑執行人として活躍。死刑執行時の手腕があまりにも見事である事から「鉄の腕」というあだ名が付けられた。さて、その蔡福(さいふく/cài fú)のもとに腐敗役人たちの手で送り込まれて来た冤罪死刑囚が、上述の盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)。この盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)を救出しようとする梁山泊勢力と北京大名府が水面化で闘争を開始。これに巻き込まれた蔡福(さいふく/cài fú)と蔡慶(さいけい/cài qìng)の兄弟はどちら側についても問題があった為に行動選択に苦しむも、最終的に梁山泊勢力の加担を表明。蔡福(さいふく/cài fú)は老練なやり口で何とか巧みに北京大名府に疑われないように行動し、盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)救出作戦に貢献。この事件の収拾を経て、兄弟で梁山泊勢力に合流。蔡福(さいふく/cài fú)は百八人の英傑たちが集結した大聚義(だいしゅうぎ/dà jù yì)の際に序列第94位に定まり、弟と共に「梁山泊刑罰執行管理人」に任じられた。招安後は各地の戦いにおいて歩軍の一員として戦い、最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦において戦死。戦後、朝廷は彼を義節郎の称号に追封した。

 

<処刑人と社会的地位>

日本の江戸時代では、それまでに何らかの理由で没落した市民や犯罪者などを「穢多・非人(平民以下の階級)」とし、彼らに不浄とされる仕事を担わせる社会階級制度があった。その不浄な仕事とは生命の生死に関わる肉屋、皮革屋、葬儀屋、そして処刑人などであった。この階級制度は明治維新後に廃止されたが、伝統的な集落では暗黙の了解としてこの穢多・非人の血脈の一族を低く見なし続けることを常識とした。これが現代までに続く「部落差別問題」である。

 

近年のそれは黒人差別のような強烈かつ明白なものであるとは限らなかったようだ。地域や時代にもよるが、私の身内の故郷の話を聞いた所によると、その地域は非常に封建的であるにも関わらず部落民と地元民は基本的には協働的に暮らしていたという。但し、冠婚葬祭の行事には部落民の一族が呼ばれなかったり、子どもたちが無邪気にその家の前を通る時に部落民を揶揄する歌を歌ったり、婚姻の話が持ち上がると相手の経歴を調べたりと、見えにくい差別は残っていたようだ。身内は「当時は部落なんて気にした事は無かった、友人やその家族も特に文句を言わずに素直にそれを受け入れていたように見えた」と言っている。ただし、それは差別を受けていた側の見識ではなく、逆の立場からすれば深刻な義憤を覚えていた可能性もある。

 

話が逸れたが、宋王朝時代もその日本の歴史同様、処刑人は決して社会的地位が高い職業ではなかった。よって、本来であれば処刑人の蔡福(さいふく/cài fú)も人々から低く差別的に見られる立場にあったが、彼は抜け目のない世渡りの巧さがあり、悪賢いとまではいかないけれど、周囲の様々な権力構造の中で調整的に自分の言動をプロデュース出来る才覚を有していた。その結果として、彼は『水滸伝』の登場時点においてある程度の人脈と人望があり、現場を取り仕切る一定の裁量権を獲得していた。

 

<二重スパイの苦悩と才能>

こうして安定した社会的地位を獲得した彼であったが、人生最大の選択を迫られる大事件が起こる。それが盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)救出事件を巡る、梁山泊勢力と北京大名府の大衝突だ。自分と弟の社会的地位を守る為には北京大名府の言う通りに盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)の死刑を決行しなければならないが、その死刑を決行しようとすれば、梁山泊勢力が北京大名府を侵略し、それによって自分たちが殺される可能性が大きかった。だからと言って、梁山泊勢力に完全に協力をして、盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)の逃亡を助けたり、死刑執行を延期したりすれば、今の自分の安定した地位を維持できなくなり、あまつさえ自分と孫娘(※上述の改修事項を適用)が弾劾されたり、処刑される可能性もある。

 

こうして、蔡福(さいふく/cài fú)は梁山泊勢力と北京大名府、どちらに対しても「あなた方の策略に協力します」と言わなければならなかった。孫娘との相談によって梁山泊勢力に帰順する事が決まっていたが、それでも最後の最後まで自分たちが二重スパイである事を悟られてはならなかった。現実世界の冷戦時代に旧ソヴィエト連邦の国家保安委員会に機密情報を流していた英国人二重スパイ、ジョージ・ブレイクのような巧妙な立ち回りで、蔡福(さいふく/cài fú)は自分たちの苦境に活路を拓いたのだ。

 

彼の「スパイとしての鉄仮面」を見破れる者は北京大名府にはいなかったし、彼に接触した梁山泊勢力側の柴進(さいしん/chái jìn)も彼の鉄仮面を心から信頼して1000両(約6000万円)という大金を容易に預けた。そういう意味で、蔡福(さいふく/cài fú)はイギリス人政治家サッチャーの「鉄の女」ならぬ「鉄の男(鉄仮面を被った男)」だと言えるのだ。

 

<ただの鉄ではなく熱もある>

蔡福(さいふく/cài fú)の人間としての魅力は良識と美徳という「熱」を有する鉄の男であるという点だろう。彼は盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)が腐敗役人たちの手によって牢獄内で非人道的な扱いを受けている事を内心不憫に思っており、盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)の元家臣である燕青(えんせい/yàn qīng)が物乞い同然の格好でわずかな食べ物を差し入れしたいと申し出た時は目を潤ませて特別にそれを許可している。また梁山泊勢力が北京大名府の征伐に乗り出した時、蔡福は自分の故郷が戦火に巻き込まれるのを見て非常に心を痛め、柴進(さいしん/chái jìn)に「大官人、一城の民を救い、残害させないように」と訴えている。この彼の懇願によって、北京城の大半の住民が救われている。こうして彼の人間としての「熱」を振り返ってみても、そのバランスの良い感覚性は若者が出せるような味わいではないように感じる。

 

<三元論に基づく特殊技能>

※上述の考察事項を反映する。

 

#### 馬馬虎虎(心術)

**説明**: 蔡福は、複雑かつ反目的な政治的闘争や人間関係の渦中に巻き込まれても、冷静と情熱の均衡を保ちながら最適解となる行動選択を行える能力「馬馬虎虎」を持っている。この心術は、彼の高い洞察力と冷静な判断力に基づき、困難な状況でも効果的な行動を取る力を発揮する。

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この心術は、道具に依存せず、蔡福の精神的な力と判断力に基づく。

  - **思考性(とても濃い)**: 効果的に最適解を見つけるためには、高い洞察力と判断力が必要。

  - **関係性(中程度)**: 蔡福の心術は、仲間たちとの信頼関係を強化し、困難な状況でも効果的な行動を取る力を高める。

 

#### 具体的な使用例:

  1. **政治的闘争への対応**: 蔡福は、複雑な政治的闘争に巻き込まれた際、冷静と情熱の均衡を保ちながら最適な行動を選択し、効果的に対処する。
  2. **人間関係の調整**: 蔡福は、反目的な人間関係の中でも、冷静かつ情熱的に行動し、最適な解決策を見つける。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

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