天朗気清、画戲鑑賞

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【Kaikoden(水滸伝+α)制作メモ 005】柴進

柴進

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

 

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水滸伝』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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柴進(さいしん/chái jìn)

<三元論に基づく個性判定>

5番 **とても強い生存欲求**、**強い知的欲求**、**とても強い存在欲求** - **「野心的協力者」** - 他者と協力しつつも、自身の野心(信義)を追求する。

 

<概要>

柴進(さいしん/chái jìn)、あだ名は小旋風(しょうせんぷう/xiǎo xuán fēng)。滄州(そうしゅう/cāng zhōu)の出身で、後周皇族の末裔。皇帝が禅譲(皇帝の位を別の血筋や組織に受け渡す事)した場合、その末裔に対して丹書鉄券(※下記参照)が適用される為、彼もまたその特権を有していた。柴大官人と呼ばれて人々から敬愛と尊敬の念を集める。作中では悪辣な官僚たちに貶められた林冲(りんちゅう/lín chōng)、宋江(そうこう/sòng jiāng)、武松(ぶしょう/wǔ sōng)などを助け、公正で義理堅く、財産を惜しみなく分け与えた。後に柴進の土地と屋敷を乗っ取ろうとした悪徳屋人の殷天錫(いんてんしゃく/yīn tiān xī)を、梁山泊勢力の李逵(りき/lǐ kuí)が義憤から成敗してしまったことから、その咎を一身に受ける形で高廉(こうれん/gāo lián)により死刑判決が下る。これに対して、梁山泊勢力の好漢たちが死刑執行前に襲撃を断行して彼を救出。これを機に、柴進は梁山泊勢力の一員となった。梁山泊の大聚義(百八人の英傑が全て合流した出来事)の際には序列第十位に位置。以後は主に財務管理を担当した。方臘(ほうろう/fāng là)を討伐する際には柯引(かいん/kē yǐn)と名を変え、内偵者として方臘軍に潜入をした。討伐後、横海軍の滄州都統制に任命されましたが、その後辞職して故郷に戻り、穏やかな余生を過ごした。

 

<丹書鉄券>

「丹書鉄券」とは、もともと古代の皇帝が功臣や重臣に授けた特権証書。朱砂で書かれた文書を鉄板に記していたため、この名前が付いた。偽造を防ぐ為、鉄券は半分に割って当人と朝廷がそれぞれの破片を保管した。その他、名前としては「丹書鉄契」「金書鉄券」「金券」「銀券」「世券」とも呼ばれ、民間では「免死牌」「免死金牌」とも評された。言うなれば「免罪符」であり、特別な功臣は世代を超えて優遇や免罪を保証されたのである。

 

※画像:百度百科より引用

 

宋代においては宋太祖趙匡胤皇位を奪取した後、民心を安定させるために柴氏の子孫を厚遇して丹書鉄券を授与した。この柴氏の特権は「罪を犯しても刑罰を受けない」というものであった。この実在の事象が『水滸伝』の柴進に適用されている。尚、時代によって特権の範囲や規模が異なり、『水滸伝』が書かれた明時代における鉄券制度は宋時代よりも厳密な規範が設けられた。その規範は「公爵は一等、侯爵は二等、伯爵は三等など、全七等に分類」「大きさは一等の公爵の鉄券は高さ1尺、幅1尺6寸5分であり、以後の等級は高さと幅がそれぞれ5分ずつ減少する」「謀反は免罪対象外となる」「免死の回数が減り、子孫には免死の特権が消滅した」といった具合であった。

 

<外見>

馬に乗るその人物は、龍の眉と鳳凰の目、白い歯と朱唇、三つの牙を覆う髭、三十四、五歳の姿であった。

 

<原型>

宋元時代の『大宋宣和遺事』において、"小旋風"の柴進は宋江の部下の三十六人の頭領の一人として登場している。同時期の龔開による『宋江三十六人讃』にも柴進が登場し、「風存大小、黒悪則惧。一嗯之微、香満太虚(彼が織り成す大小の風により、黒く悪しきものはみな恐れをなした。一声の微かなる音も、香りが太虚に満ちるように染み渡った。)」と讃えられている。この二つの文学作品は『水滸伝』の雛形または原型とされており、柴進の人物像もここから出発したものと考えられる。

 

<あだ名の考察>

梁山泊勢力の筆頭株として常に物語を賑やかす存在の「李逵(りき/lǐ kuí)」は、そのあだ名が「黒旋風」。一方の柴進は「小旋風」。単純に漢字表現のみを比較すると柴進の方が下位に属する人物かと感じられるが、この両者の優劣は全くつかず、お互いに個性も才能も活動範囲も完全に異なっている。作中では明確な説明はないので、後世の有識者が次のような考察を行っている。

 

- 「旋風」は金国の大砲の名前である。「三朝北盟会編」によれば、「金人攻東水門、矢石飛注如雨、或以磨磐及碡碌縛之、為旋風砲」と記されている。そして、「小旋風」の「小」は「大小」の小ではなく、「肖」として解釈されるべきである。つまり、「小旋風」は柴進の行動が大砲のような影響力のある人間である事を示している。

 

- 「旋風」は逆方向の二つの風が交差して形成される渦巻き風で、風速が非常に速く、砂土を巻き上げるものである。迷信や伝説では、旋風は「鬼差」とも見なされる。よって「小旋風」は、柴進が助けを求める人々を巻き込んで支援することを意味しているのではないか。

 

- 作家の金聖嘆は「旋風」が悪風を意味すると考えた。これは「その勢いは地から起こり、初めは灰を舞い上げ、次第に砂を吹き飛ばし、天地を暗くし、人と獣を驚かせる」という印象を与えるという。よって、柴進のあだ名が「小旋風」であるのは、特権を持って罪人たちと対等に接する彼を嘲笑する為の一種の皮肉な表現だったのではないかと彼は考えた。

 

<人物評価>

- 余象斗:柴進は財を施して貧者を救い、天星が英雄たちと交わるのを助け、風を四方に動かした重要な人物である。

 

- 李卓吾:朝廷側に属していた朱仝(しゅどう/zhū tóng)、雷横(らいおう/léi héng)、柴進(さいしん/chái jìn)は王法を顧みず、人情を重視した為、最終的には盗賊に成り下がってしまったと言える。また、水滸伝における「文(智絶)」の代表格が柴進であり、「武(勇絶)」の代表格が李逵(りき/lǐ kuí)だと考えられる。

 

- 金聖嘆:盧俊義(ろしゅんぎ/lú jùn yì)と柴進(さいしん/chái jìn)は英雄として描かれているものの、ただの好客(人の良い)中級の人物であるとも考えられる。柴進(さいしん/chái jìn)を「旋風」と名付けるのは、彼を皮肉った表現である。

 

- 袁無涯:柴進の(好漢たちに投じた)千金はすべて侠気に満ち、燕青(えんせい/yàn qīng)がの弩(いしゆみ)はすべて義気に溢れ、石秀(せきしゅう/shí xiù)の跳躍はすべて正気に満ちている。

 

- 張恨水:彼が盗賊に成り下がるつもりはなかったとしても、江湖の山賊とは早くから通じていた。おそらくこうした行動の背景には、柴進の社会的な立ち位置がが関係している。宋の綱紀が乱れ、奸臣が権力を握った結果、柴家の禅譲の功績が長らく誰にも言及されなくなった。柴家は不自由なく宋の糧を食べていたが、自分たちが彼らから尊敬をされていない事を感じ取っていただろう。こうして考えてみれば、仮に唐州の一幕が無かったとしても、彼は遅かれ早かれ梁山泊勢力に加わっていたに違いない。

 

<三元論に基づく特殊技能>

#### 弁証の旋風(導術)

**説明**: 柴進は、人間同士の長所と短所を共に引き立たせ、集団の中に新しい価値や出来事を生み出す能力を持つ。この導術は、個々のメンバーの特性を理解し、それを最大限に融合・交流・衝突させる事により、旋風のような相乗効果を巻き起こす。

 

- **効果**:

  - **道具性(なし)**: この導術は、道具に依存せず、純粋に柴進の観察力と人間関係の理解に基づく。

  - **思考性(中程度)**: 柴進は、集団における個々の特性を見極め、何かが生まれ得る個性同士の組み合わせを無意識的に分析する。

  - **関係性(とても濃い)**: 柴進の導術は、集団において普段であれば交わらないであろう人員同士を自然と引き合わせ、弱点を補い合い、また長所を交差し合う鮮烈な関係を導く。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

呑気好亭 華南夢録

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