天朗気清、画戲鑑賞

三元論を基軸とした論理学探求の旅路へ

題名に入れたいマクガフィン

Fever Pitch

私:2005年のアメリカ映画『Fever Pitch(邦題:二番目のキス)』を簡単に紹介してくれる?

 

ChatGPT:2005年のアメリカ映画『Fever Pitch』(日本では『二番目のキス』として知られています)は、ニック・ホーンビィの同名の1997年の本を基にしたロマンティック・コメディです。監督はボビー・ファレリーとピーター・ファレリーが務め、主演はジミー・ファロンとドリュー・バリモアです。 この映画は、ボストン・レッドソックスに熱狂的なファンであるベン(ジミー・ファロン演)と、仕事に熱心な女性リンジードリュー・バリモア演)との間の恋愛を描いています。ベンの野球への情熱が二人の関係にどのような影響を与えるかを、ユーモラスかつ感動的に描いています。 この映画の特徴的な点は、ボストン・レッドソックスが2004年にワールドシリーズで優勝した実際の出来事を背景にしていることです。この偶然の一致は、映画の撮影スケジュールと重なり、映画の結末に大きな影響を与えました。それまで86年間ワールドシリーズでの勝利がなかったレッドソックスの勝利は、映画のテーマである希望と忠誠心を象徴しています。

 

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 映画翻訳の世界においては、輝く論理学の感性と共に芸術性と真摯に向き合った創造的な邦題もあれば、原作を無視してしまったマーケティング最優先の実に冴えない邦題もある。女優ドリュー・バリモア(『E.T.』子役デビュー後に薬物に溺れたものの見事に銀幕に復活を遂げた名女優)の出演するロマンティックコメディ『二番目のキス』はまさに後者の事例だ。

 メジャーリーグレッドソックスチームに熱狂し続ける高校教師の恋物語。その題名である「Fever Pitch(大熱狂)」は主にスポーツで極度にファンたちが盛り上がる様子を示す英語表現。その「Fever Pitch」を日本国内の例で示すのなら、2023年にプロ野球チーム阪神タイガースが日本一優勝に輝いた瞬間のファンたちの歓喜ぶりを想起すると良い。(実際、レッドソックス阪神タイガースは「地元で長年愛され続けている」「良い選手は多いが勝利に恵まれない事が多い」「人生を掛けて応援する情熱的なファンがチームを支えている」といった具合に、かなり共通点が多いと言われている。)

 野球が物語を突き動かす重要な"小道具(舞台)"として颯爽と描かれる恋物語。「Fever Pitch」はその"小道具"と物語の内容の両者を結びつける非常に良い題名だ。しかし、これが日本に入ってきた途端にこれが『二番目のキス』となってしまった。この題名だかで「野球」を想起する事ができる人間は、この世のどこを探しても見つからないだろう。そもそも「二番目」も「キス」も、どちらもこの作品では何のマクガフィンにもなっていない。(※マクガフィンとは、主人公や物語の原動力となる仕掛けや道具のこと。例えばイギリス映画のサスペンス分野に君臨する巨匠アルフレッド・ヒッチコックはこのマクガフィンの表現がとても効果的であった。)

 強引に解釈すれば、レッドソックスという野球チームに精神のファーストキスを奪われた男が、そのレッドソックス以上に愛する人と出会って彼女に二番目のキスをするという状況を表現しているのかもしれない。しかし、先の通り「キス」に関しては映画の中で特別な取り扱いがされていない為、この解釈にも随分な無理がある。

 この奇怪な邦題の制作裏は映画通にはよく分かる。ドリュー・バリモアは日本国内でも恋愛作品のヒット作に恵まれており、特に有名なものに『50回目のファーストキス』『25年目のキス』がある。スティーブン・セガール作品に「沈黙の〜」を強引に題名に挿入するのと同様に、ここでも「これはドリュー・バリモアの恋愛作品ですよ」という事を伝える為、無理やり数字とキスをねじ込んだのだ。その気持ちや裏事情が分からないでは無いが、創造を生業とする人間としてはやはり非常に気持ちが悪い。

 Fever Pitch(フィーバー・ピッチ)では確かに日本文化には伝わらないが、野球やレッドソックスにまつわるマクガフィンは絶対に題名に入れなければならないし、また映画本編には存在しないモチーフ(今回の場合は「キス」)は逆に絶対に入れてはいけない。私は作中に登場する非常に愉快な野球少年の台詞を題名にしても良かったと思う。野球ファンである自分を理解してくれない恋人リンジーに対して愚痴をこぼすベンに対して、人生を達観したような野球少年がこう言うのだ。

 

"(先生がそこまでレッドソックスを愛しているというのはよく分かりますけど…)レッドソックスはあなたを愛してくれるんですか?"

 

 これをそのまま題名にすれば、本作のマクガフィンと内容が見事に合致すると思われる。口述だと少し長いので、『レッドソックスは、君を愛するの?(Red Sox likes you, huh??)』ぐらいに簡略化しても良い。コメディ映画なので、誇張的な感嘆表現として「?」を「!?」「??」に変えても効果的だ。商標やその他の権利関係で「レッドソックス」の使用が可能なのかどうかは不明だが、絶対に『二番目のキス』なんて創造性のない題名よりもずっと良い。

 

※画像:DALL-E

 

作品紹介

 

著作紹介("佑中字"名義作品)
呑気好亭 華南夢録

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